企業から退職金をもらう時、あるいは自営業者が小規模企業共済で積み立ててきた共済金を受け取る時に問題となるのが、退職金を一時金(一括)でもらうのか、それとも年金(分割)でもらうのか、というこどです。

一時金受取にも年金受取にもそれぞれメリットとデメリットがあり、どちらがオトクであると一概には言えません。この記事を読んで、みなさんにとってはどちらが得かを考えてみて下さい。

退職金は受け取り方にかかわらず税制面で優遇される

退職金も所得の一種であることには代わりありませんから、もらうとそれに応じた所得税と住民税がかかります。しかし、一方で退職金は引退した世代の老後を支える貴重な原資でもあるため、従来の給与所得や事業所得と比べると、大幅に税制面で優遇されています。

つまり、多額の退職金を受け取っても、それによって発生する所得税や住民税はほんの僅かになるのです。

一時金受取の場合の税制

退職金を一時金として一括で受け取る場合、その所得は退職所得として計算されます。退職所得は以下の計算で導き出されます。

退職所得=(一時金金額-退職所得控除)×1/2

退職所得控除とは、退職金を受け取る際に受けられる控除(税金を少なくする優遇措置)です。退職所得控除は勤続年数Xによって決まり、以下の式で導けます。

勤続年数(=A) 退職所得控除額
20年以下 40万円×X(80万円に満たない場合には、80万円)
20年超 800万円+70万円×(X-20年)

例えば、勤続年数が10年の場合、退職所得控除は40万円×10=400万円、25年の場合は800万円+70万円×(30年-20年)=1500万円となります。

具体例を元に計算してみましょう。例えば、勤続年数が35年、退職一時金が2500万円だったとしましょう。この場合、退職金控除は800万円+70万円×(35年-20年)=1850万円となります。

したがって、退職所得は(2500万円-1850万円)÷2=325万円となり、この部分に税金がかかることになります。もし退職所得が0円以下になった場合は無税です。退職所得は分離課税(他の所得と合算しない)であるため、他に給与所得や事業所得などがあってもここでは無視します。

次に、退職所得の金額を元に税額を計算します。退職所得に対してかかる税金は所得税、住民税、特別復興所得税の3つです。所得税は以下の表に従って計算します。

課税される所得金額(課税所得) 税率 控除額
195万円以下 5% 0円
195万円を超え 330万円以下 10% 9万7500円
330万円を超え 695万円以下 20% 42万7500円
695万円を超え 900万円以下 23% 63万6000円
900万円を超え 1,800万円以下 33% 153万6000円
1,800万超 40% 279万6000円
4,000万超 45% 479万6000円

今回の例では退職所得は325万円なので、所得税額は325万円×10%-97500円=32万5000円-9万7500円=22万7500円となります。

住民税は退職所得の10%なので、325万円×10%=32万5000円です。

特別復興所得税は所得税の2.1%なので、22万7500円×2.1%=4777円です。

すべてを合計すると約56万円です。

仮にこのような制度がなく、退職所得にも給与所得と同じように税金がかかると仮定した場合、2500万円の所得に対しては1000万円程度の税金がかかることを考えると、退職所得控除がいかに大きなものであるかがわかります。

年金受取の場合の税制

退職金を年金で受け取る場合は、また別の税制が採用されます。年金受取の場合は「公的年金などの雑所得」として、受け取ったと仕事に課税されることになります。この場合は公的年金や国民年金の受給額と退職金の受給額を合算することになります。公的年金などの雑所得は以下の控除枠があり、これを超えたぶんが課税対象となります。

まず、公的年金等控除の計算式は以下のとおりです。

公的年金+企業年金(退職金の年金受取額)×下の表の割合-下の表の控除額

年齢 公的年金等の収入金額の合計額 割合 控除額
65歳未満 (公的年金等の収入金額の合計額が70万円以下の場合、所得税は非課税)
70万1円以上130万円未満 100% 70万円
130万円以上410万円未満 75% 37.5万円
410万円以上770万円未満 85% 78.5万円
770万円以上 95% 155.5万円
65歳以上 (公的年金等の収入金額の合計額が120万円以下の場合、所得税は非課税)
120万1円以上330万円未満 100% 120万円
330万円以上410万円未満 75% 37.5万円
410万円以上770万円未満 85% 78.5万円
770万円以上 95% 155.5万円

このように、一応控除の仕組みはあるのですが、会社員の場合はこれとは別に厚生年金ももらうことになるはずで、その場合は厚生年金の受取額だけで課税対象になることが多いため、退職金を年金で受け取るとどうしても税金は高くなってしまいます。

具体的に計算してみましょう。例えば、現時点で70歳、厚生年金の受取額は年間で200万円であるとします。この場合、公的年金と企業年金の合計額は200万円なので、課税所得は200万円×100%-120万円=80万円となります。

一方、これとは別に企業年金を100万円もらっている場合、公的年金と企業年金の合計額は300万円なので、課税所得は300万円×100%-120万=180万円となります。

企業年金の全額が課税所得に上積みされてしまうため、どうしても税金が高くなってしまうのです。また、雑所得が増えると国民健康保険料も増えてしまうというデメリットもあります(一時金受取の場合は国民健康保険料は変わりません)。

税制面以外のポイント

一時金受取を選んだ場合、退職金を一度にまとめて受け取ることができます。退職金をまとめて受け取る一番のメリットは、そのまとまったお金をローン返済に当てられることです。

住宅ローンや教育ローンを残したまま年金生活に入ると、年金収入の中から住宅ローンを返済しなくてはいけなくなります。心理的な負担も大きいですし、なにより返済期間が後ろに伸びてしまうため余計な利息を払わされてしまいます。

一時金受取を選んで、退職直後にまとめてローンを返済してしまえば、債務がなくなりスッキリとした気持ちでセカンドライフを始められますし、繰り上げ一括返済による利息の削減も期待できます。

一方、一時金で受け取った場合、そのお金は自分で全部管理しなければなりません。もし運用に失敗したら、全部自分に跳ね返ってします。

定期預金など元本割れしない金融商品もありますが、もし高いインフレ率を記録してしまった場合、実質的な資産は目減りしてしまいます。企業年金は非課税で運用されるうえ、運用も他人がしてくれるので楽です。

ただし、企業年金も運用次第では受取額が減額となってしまうこともあります。もしあなたが拒否しても、全体の3分の2以上の同意があれば全員を対象に引き下げが行われます。自分で運用をしても、他人に運用を任せても、どちらにしろ受取額が減ってしまう可能性はあるということです。

企業年金の主なメリットは、計画的な受取ができることです。預金口座に退職一時金としてまとまったお金があると、どうしても気が大きくなってしまいがちです。

何千万もの退職金をわずか数年で取り崩してしまい、老後の生活に当てるお金がなくなってしまっては困ります。年金受取ならば毎月一定額が振り込まれますので、そのような心配はありません。

一時金と年金を組み合わせることも可能

退職金の受取方法は企業年金によってまちまちですが、多くのところでは「一時金100%」「年金100%」だけでなく「一時金75%、年金25%」「一時金50%、年金50%」のような受け取り方も認められています。

どっち付かずな印象を受けるかもしれませんが、ある程度まとまったお金がほしい、でも将来のための備えも欲しいという場合はこうした選択肢を選ぶのもいいでしょう。

住宅ローンがある場合は一時金で早めに返しておくのが吉

一時金と年金をどう組み合わせるべきかは人によって異なります。厚生年金や個人年金保険、確定拠出年金など、他の備えが十分にあり、これだけでも老後の生活が十分成り立つようでしたら、全部一時金で受け取ってしまってもかまわないでしょう。

逆にそうした収入が期待できず不安な場合は年金に多めに回しておいたほうがいいかもしれません。

なお、住宅ローンが残っている場合は、その分は一時金で一括全額返済することをおすすめします。場合によっては数十万円以上も利息を節約することができるからです。

手数料は金融機関によってまちまちですが、店舗型銀行ならば5万円程度、ネット銀行やフラット35の場合は無料のところが多いです。数十万円節約できるのですから、仮に手数料を5万円払ってもトータルでは黒字です。

一時金で受け取るのか、年金として受け取るのか。いきなり問われると迷ってしまうこともあるかと思いますので、退職が近づいてきたら検討を始めるようにしましょう。

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