昨年末に国会で与野党の激しい攻防の末、年金制度改革法案、俗に言う「年金カット法案」が成立しました。
さかんにニュースが報じられましたが、実際にどんな影響が出てくるか詳しくは分からない、プラカードを掲げた議員が何か叫んでいる印象しかない、という人も多いのではないでしょうか。

そこで年金問題に詳しい、社会保険労務士の北村庄吾さん(株式会社ブレインコンサルティングオフィス)に聞いてみました。

年金は今後、毎年約1%ずつ減少する

今回の法案がやたらとクローズアップされていますが、北村さんによると「すでに年金の減額は始まっていた」そうです。それが、2015年から開始された『マクロ経済スライド』という制度です。

聞きなれない言葉ですが、「物価が10%上昇すれば年金額も10%増えて支給されていた今までの状態が、物価が10%上昇しても年金額は据え置かれる状態に変わった」ということです。

今回の年金カット法案では、これに賃金の連動が加わりました。

これまでは、たとえば物価が2%上がって賃金が1%下がった場合、『+2%-1%=+1%』という計算がされて、年金は1%上がった額で支給されていました。それがこの法案の成立によって、物価が2%上がっても賃金が1%下がれば、年金額は賃金の方に連動して1%下がることになったのです。

また、年金の未調整を持ち越すキャリーオーバー制度なども取り入れられるため、今後は「平均して毎年約1%ずつ年金額がダウンしていくと考えてよい」ということでした。

仮にその通りに推移したとすると、夫婦2人世帯の平均年金額である約265万円(2017年度厚生労働省年金局)は、20年後には約219万円、40年後には約179万円にまで減ってしまいます。

もちろん、現役世代の賃金が上がれば支給される年金額も上がるということになりますが、「アベノミクスでも全く給与が上がっていない現状を見るに、日本の景気改善は今後も期待しにくい」と考えるのは妥当ではないでしょうか。

年金がもらえるのは70歳から

政府はさらに支給開始年齢の引き上げも検討を行う予定であり、「その外枠はできあがっている」と北村さんは言います。

たとえば雇用保険、いわゆる失業保険のことですが、これまで65歳以上で転職した場合は新たに加入できなかったものが、65歳を超えても加入できるようになりました。65歳以降もずっと働いていける環境づくりが、整えられてきているのです。また先日のニュースでは、老人の定義を75歳にするべきという日本老年学会の提言もありましたが、これも世論形成ができている証と言えるでしょう。

実は厚生労働省は、民主党政権時代に支給年齢の引き上げ案を国会に提出していたのですが、そのときはメディアの反発がすさまじく、すぐに案を引っ込めてしまったそうです。その苦い経験があるため、支持率の高い安倍政権時代に長い時間をかけてメディアを主導し、「65歳はまだ若い」という雰囲気作りを行ってきたのかもしれません。

「おそらく2020年の東京オリンピック前、明るいニュースで賑わっているころに隙をついて、支給開始年齢を67歳や68歳に引き伸ばす法案を成立させるのではないか」、と北村さんは見ています。

また日本の年金制度にはこれまで、定年から5年後に支給が開始されてきた歴史があります。55歳定年の時代は年金の支給は60歳からで、60歳定年の時代には65歳からでした。「同じように考えると、65歳定年が一般的となる時代には、支給開始は70歳からになるでしょう」という予測には、説得力があります。

年金制度はもう持たない! なりふり構わない法改正はまだまだ続く

下のイラストを見てください。

日本における65歳以上の高齢者人口は、1960年時点で535万人。現役世代人口は6,000万人なので、高齢者1人を11.2人で支えることができました。しかしこれが2030年になると、高齢者人口3,685万人に対して現役世代人口は6,773万人と予想され、高齢者1人を支える人数は1.8人にまで減少します。

さらに年金の支給総額も、1989年の約22.5兆円から2014年は約54兆円まで拡大しています。

年金を納める人口に対して、年金を受け取る人口が爆発的に増えすぎるため、世代間扶養である現在の制度はもう機能させることが難しくなってきています。「それでもムリヤリこの制度を維持するために、抜本的な法改正は今後も繰り返される」と考えるのは、不思議なことではないでしょう。

老後の生活補助として、なくてはならない現在の年金制度。この制度が維持される以上は、今後も付き合い続けていかなければいけません。まだまだ現役世代である私たちには、老齢年金に頼らない自助努力での準備が求められているのです。

(ライター:北村 庄吾)

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