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一見、華やかにみえる証券ディーラー。でも、実際の現場は華やかさとは対照的に時代錯誤の遺物と化し、グローバル化の荒波に吞み込まれています。

今回話題に取上げるのは、地場証券の証券ディーラー(主に契約ディーラー)です。

証券ディーラーとして成功を収めている人間は金銭感覚が麻痺し、お金に対し特異な考えに苛まれています。これぐらいでないと、続かない世界でもありますが。

汗水たらして働いて稼いだお金が「良いお金」とされる「ものづくり大国日本」では、なかなか認めてもらえない職業です。

映画「ハスラー2」の名言に「勝負で稼いだ金は、働いて稼いだ金の2倍の価値がある」とあります。この言葉に感銘を受ける人間のみ証券ディーラーとして生き残れるのです。証券ディーラーは「勝てば官軍、負ければ賊軍」の世界です。では、証券ディーラーの今と昔を考察してみましょう。

(1)長期低迷相場から不死鳥の如く

証券会社のディーリング部門に所属する証券ディーラーの役割は、市場に流動性を供給し取引を円滑にすることです。この役割を遂行するため証券の価格形成に対して過度な影響力が及ばないように取引規制(社内ルール)が定められています。ザラ場中(取引時間中)の高値買い、安値売りは厳禁、個別銘柄の関与率、注文の変更・取消し、見せ玉の禁止等、細かく規制されています。このように何かと規制に縛られている証券ディーラーでしたが、1990年代の長引く証券不況脱却のため規制が緩和され、半ば何でもあり的な売買が可能になったのです。

この規制緩和により、気が荒く、向こう見ずで、自意識過剰な性格の証券ディーラーが相場で暴れ出しました。他人の金(証券会社の自己資金)をいいことに、とてつもない勝負にでます。当時のIT関連株を中心とする新興市場の動きを振り返るとよくわかります。半期で億以上稼ぐ凄腕ディーラーが続出する一方、営業マンの手数料は思うように上がりません。辛い仕事に従事している営業マンを尻目に、この時代の証券界の花形職種へと登り詰めたのが証券ディーラーだったのです。証券会社屈指のドル箱となった証券ディーラーですが、大きな問題が立ちはだかります。その問題とは、いくら稼いでも(会社規定のボーナス)+(若干のインセンティブ)といった給与形態にあったのです。稼いだ金額に比してあまりにもインセンティブが低過ぎたのです。

(2)溺れる者は藁をもつかむ

ここに目をつけたのが地場証券でした。バブル崩壊後、経営危機に直面していた地場証券は、高額のインセンティブ(歩合給)を提示し、この凄腕ディーラーを中心に業界経験者を契約社員(契約ディーラー)として採用しはじめました。凄腕ディーラーが稼ぎだす収益は年間数億円、順調に勝てば数年間は会社も存続できます。地場証券にとってまさに救世主になりうるのです。ただ勝負の世界であるが故、いままで勝っていたからといって、移籍後も勝ち続けるとは限りません。負ければそこまで、自主廃業の道へ一直線です。正に地場証券は「溺れる者は藁をもつかむ」思いだったのです。ディーラーで最後の勝負に出るのは、会社側にとっても残された数少ない選択肢の一つであり、起死回生の大勝負だったのです。

ここで契約ディーラーについて少し触れておきましょう。
この契約ディーラーですが(ヘッドハントされた凄腕ディーラーは別格)、最初は月間収益の20%ぐらいのインセンティブからスタートします。実績を積み上げていけば20%、30%と順次上がっていきます。(普通の稼ぎのディーラーなら30~35%が上限)

最も高額なインセンティブは月間収益の50%にもなります。やはり過去の実績の積み上げが重要な決定要素となるのです。年収ベースで1億円プレーヤーも珍しくありません。ここまでくればプロスポーツ選手とよく似たもので、稼ぐディーラーは他社からのヘッドハントも絶えません。会社を移籍するたびにインセンティブは上がり、凄腕ディーラー獲得合戦が展開されました。獲得合戦の終盤になると移籍金を出す会社まで現れてきました。これがディーラー・バブルだったのです。

(3)一攫千金を夢見て

しかし、上述したような高額なインセンティブを獲得できる証券ディーラーは数%で、ほとんどは食っていくのが精一杯というのが現状です(現在ではなく、このディーラー・バブルの時代でさえ)。高額なインセンティブを得るディーラーがいる一方、3カ月ほどの試用期間で一定額の収益目標を達成できないと無情にも契約解除、ゲーム・オーバーになります。無情な世界ですが業界内では成功談ばかりが飛び交うのです。当然、凄腕ディーラーに対しては妬みもあります。でも、勝てば官軍の世界です。妬みなど「負け犬の遠吠え」としか聞こえてきません。

無謀な手数料ノルマを課せられる営業職からもどっと転職者が現れます。中堅証券会社の若手社員、ベテランから支店長クラスの方まで一攫千金を夢見て地場証券の契約ディーラーに応募してきました。幸い地場証券は「来る者は拒まず。」といった体質なので、業界経験者ならディーラー経験がなくても、また他業界からでもある程度の証券知識さえあれば、けっこう簡単に採用します。ただディーラーとして生き残るのは10%未満です。殆どの方が3カ月(最短は1週間もあった)で契約解除になります。労働組合にも所属できないので、文句も言えません。それに一度地場証券に勤務すると、よほどの専門性を身に付けていないと中堅以上の証券会社への復帰は難しく、「ディーラー解雇=証券業界から身を引く」といった図式です。一攫千金を夢見るあまり、証券業界や他業界で積み上げたキャリアを一瞬にして台無しにする恐ろしい世界なのです。

(4)資金的な制約下でのディーリング

規制緩和により半ば何でもありになったとはいえ、地場証券は資金的な制約があります。損に関しては非常にシビアです。ましてオーバーナイトなど、試用期間ではほとんど認めてもらえません。ある程度の経験を積んだディーラーでも1億円のオーバーナイトを許容されるのは珍しいほどでした。日中枠(ザラバの瞬間最大ポジション)も試用期間は3,000万~1億円といったところでしょうか。「えっ、そんなもんか!たいした金額じゃないな。」と驚かれる方もいると思います。(先物ディーラーはこの限りではありません。あくまで地場証券の現物ディーラーを対象としている)しかし、ここで考えて頂きたいです。オーバーナイトのポジション枠を与えられず、日計りで勝負するには、これぐらいの金額の方が流動性リスクを軽減できるのです。

仮にザラ場で1銘柄当たり3,000万円、3銘柄保有していたとしましょう。この3銘柄を大引け間際に流動性リスクに晒せば、自身の売りで値が崩れてしまいます。大型株で勝負すればいいのですが、大型株ではあまりにもボラティリティが低過ぎます。1億円ほどの資金枠で大型株勝負しても、とうてい目標収益に届きません。どうしても中小型株で勝負しなければなりません。ここにジレンマがあるのです。

また、生き残るディーラーはロスカットが上手です。これはデイトレーダーにも共通することではないでしょうか。一番のタブーは利益の早漏、損の遅漏です。特にデイトレーダーの方は肝に銘じてください。ロスカットできなかったディーラーは全滅しました。

ディーラーの場合はディーラー本人がフリーズしてロスカットできなくても、評価損が一定額になれば会社が強制的に処分します。しかし、デイトレーダーの場合は、ズルズルと引かされ玉を持ち、にっちもさっちもいかなくなります。結局、引かされ玉ポートフォリオになり、万事休すとなるのです。これだけは絶対避けて欲しいことです。デイトレードで勝負するための必要条件です。

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(5)アルゴリズムに翻弄される証券ディーラー

このように証券ディーラーは証券界での花形職種となり、凄腕ディーラーはこの世を謳歌しました。しかし、平家物語の冒頭に書かれています。

祇園精舎の金の声 諸行無常の響きあり

沙羅双樹の花の色 盛者必衰の理をあらわす

おごれるも人も久しからず ただ春の夜の夢のごとし

たけき者も遂にはほろびぬ ひとへに風の前の塵に同じ

人間誰しも勢いがあるときは、このような賢人の教えを忘れてしまうものです。

2010年1月、東証がアローヘッドを導入したころから様子が一変します。注文応答時間はアローヘッド導入前の数秒からミリ秒、マイクロ秒と短縮され、アルゴリズム取引が市場を支配しだしました。VWAP注文、TWAP注文、アイスバーグ注文、ステルス注文等、もはやディーラーの思考回路を超越したスピードでアルゴリズム取引が市場を席捲しだします。市場がここまで変貌するということは、「戦場の掟」がかわったのです。鉄砲隊に竹槍で応戦しても、勝負は見え過ぎています。

今までの証券ディーラーの対戦相手が一般投資家から機械にかわったのです。人間がターミネーターに戦いを挑まなければならなくなったのです。

地場証券レベルでは、これらに立ち向かうシステムに費やす予算もなく、昔ながらの竹槍で勝負しているのが現状です。明らかに時代錯誤です。「またディーラーにとっていい時代も来るだろう。」なんて悠長なことを言っている余裕はありません。

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(6)ディーリング部の淘汰は最終局面

ディーリング部にはQUIQ端末(株価や情報を表示する端末)と発注端末が設置されています。発注端末は専用線で結ばれているため、個人のネット取引に比べるとスピードは数倍速いのですが、日々進歩するAIを駆使したプログラム売買には到底敵いません。

東証がアローヘッドを導入したことにより、ディーラーが得意としていたスキャルピング、デイトレードが通用しなくなってきました。板情報を肉眼で読み、瞬間的に発注しているつもりでも、機械のスピードに太刀打ちできません。2010年以降は、凄腕ディーラーの退場も目立ちます。現在でもスキャルピング、デイトレードを得意とするディーラーはいますが、相当淘汰されました。

スピード勝負でこの世の春を謳歌していた、証券ディーラーは一転奈落の底へ突き落されました。何とか息を吹き返した地場証券も、2010年以降、ディーリング部を廃止、自主廃業といった厳しい状況に置かれています。旧態依然のスキャルピング、デイトレードが通用しなくなり、新しい投資手法で収益化を目指さなければならない時代が到来したのです。

では、証券ディーラーの再起は不可能なのでしょうか。

従来の手法にこだわり続けると、再起は難しいようですが、スピードを競うのではなく、投資の原点回帰を目指せば再起できるはずです。

株式投資の本質を理解し、企業価値と株価の乖離を探し、ミスプライスを収益化するといった、投資の原点回帰する時期なのかもしれません。

現在高収益を計上している証券ディーラーの売買手法は、革新的です。「売買代金が増えればディーリング部もいい時代がくるだろう」と考えている会社は、ディーリング部の維持コストに負け、いずれ閉鎖に追い込まれるのではないでしょうか。

もう、昔には戻れないのです。今後、スキャルピングやデイトレードはFintechの進歩とともに今以上に難しくなると思われます。

アベノミクスによる株高の恩恵を僅かしか享受できず、四面楚歌に陥った地場証券のディーリング部に奇跡は起きるのか、各社の経営戦略が今後のディーリング部のあり方を大きく変える時代になったのです。証券ディーラーも存続の岐路にあるといっても過言ではありません。

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20数年間証券業界に身を委ね、営業→企業調査(アナリスト業務)→ディーラーと主たる業務をほとんど経験しました。(日本証券アナリスト協会検定会員) その証券業界を退職し、個人投資家の教育に励んでおります。個人投資家への啓蒙活動を通じて、真の株式投資の醍醐味を追及するため、株式関連の記事を執筆しています。