戦争や紛争、自然災害、病気、失業、干ばつなどにより飢餓・貧困・生活困窮状態に陥っている人びとの数は約8億9600万人※にのぼり、その割合は世界総人口の約12.7%※を占めるといわれていました。
※世界銀行の2012年統計データ
しかし、データが公表された3年後、「2015年中に世界の最貧困層者の数が、世界人口の10%を初めて下まわるだろう」と世界銀行は発表。世界の共通悲願である「2030年までに貧困撲滅」という歴史的快挙に一歩近づいた、うれしい報告が世界を駆けめぐったのも記憶に新しいところですね。
── でも、なぜ約3%も減少したのでしょうか。
世界規模の人道支援団体が長きにわたって貧困者支援を行っていることは周知の通りですが、1980年代に始まり、90年以降に新規事業者が大幅に増加した、小規模融資で自立をサポートする金融支援サービス「マイクロファイナンス(Microfinance)」をご存じでしょうか。
貧困層の生活向上を実現した「グラミン銀行」
Microfinanceの意味は、直訳通り「小口(Micro)の金融(Finance)」。歴史を遡ると長きにわたって農業分野への融資は、商業銀行にとってリスクが高かったため敬遠される傾向にあったのですが、農村市場への公的金融機関の介入の必要性を60~70年代に途上国政府が重視したことによって、農業(農民)への融資(貸付)を目的とした公的銀行が、多くの途上国で設立されたことに端を発します。
とはいえ農村市場への公的金融機関の介入は失敗続きとなり、「農村部の貧困改善は見通しが立たない」という見方が定着。しかし、1983年にムハマド・ユヌス氏が、アジアの最貧国といわれるバングラディシュにて「グラミン銀行」(表参照)を創設。「小農にお金を貸せば貸し倒れになる」という従来の考えを覆す手法を打ち出し、貧困にあえぐ小農の人々を困窮状態から脱出させたムハマド・ユヌスは、後の2006 年にノーベル平和賞受賞を受賞。このユヌス氏の功績は瞬く間に世界に広まり、Microfinanceの金融支援サービスが大きな注目を集めるようになったのです(このときの名称はマイクロクレジット)。
貧困者に小口のお金を融資するMicrofinance
しかしながら、貧困層を対象とした金融支援サービスMicrofinancが、その後、順調に成長・拡大したわけではなく、「慈善事業」の本質から逸脱した、高利貸しと何ら変わらない悪質業者が増加するとともに、多重債務者増加などの問題も発生。しかしながら現在は、金利や融資条件の透明性、適切な規制が整備されつつあり、日本においても生活協同組合やNPOバンクなどが、多重債務者や生活困窮者を対象とした生活者向け貸付を実施するようになっています。
■今日におけるMicrofinanceの仕組み
【支援対象者】── 発展途上国に暮らす飢餓・生活困窮者層や、ストリートチルドレン、低所得者
【支援の目的】── 様々なアクター&支援サービスによって、自立(貧困から脱出)する術を身につける。さらに、経済成長への障壁となる「男女不平等」を解消するため、女性が自発的にビジネスを始められる機会と、継続的に収入を得る術を提供する
【支援方法】── 小規模融資を通して彼らが営むビジネス(零細事業)の運営を支援
【支援アクター】── Microfinance金融機関(MFI)、政府系銀行、開発金融機関、商業銀行、信用調査機関、ほか
【主なサービス形態】 ──
●マイクロクレジット(小口融資)/収入向上や生活改善に向けた少額投資によって、生活の糧を得る方法・手段の会得を支援。返済は収入の中から充当
●マイクロインシュアランス(小口保険)/自然災害・戦争、テロ、経済危機などの外的要因によって貧困状態に陥っている人を少額負担で保護
●マイクロセービング(預貯金サービス)/教育、健康・衛生のために使用する準備金や将来への投資を目的に、貧困層の貯金を保護
貧困率が最も高い「サブサハラ・アフリカ地域」
すべて国民は、ひとしく、その能力に応ずる教育を受ける機会が与えられている日本は、99%の識字率(「文字が書ける人、読める人」の割合)を誇り、同じく世界でも99%の識字率を誇る国が46ヵ国あります。
(国連人間開発報告書2013年より)
次に、識字率50%未満の国に目を向けてみると、世界において貧困率が最も高い「サブサハラ・アフリカ地域(サハラ砂漠以南)」に集中することが判明(地図参照)。当然、生活に困窮していれば教育を受けることもままなりませんので、貧困度と識字率はイコールでくくられることになります。
■識字率50%未満の国々
●セネガル(西アフリカ/識字率約48%)、●ガンビア(西アフリカ/識字率約47%)、●ペナン(西アフリカ/同約42%)、●シエラレオネ(西アフリカ/同約41%)、●ギニア(西アフリカ/同約40%)、●アフガニスタン(中東/同約38%)、●ソマリア(東アフリカ/同約36%)、●チャド(中央アフリカ/同約34%)、●ブルキナファソ(西アフリカ/同約29%)、●ニジェール(西アフリカ/同約29%)、●エチオピア(東アフリカ/同約28%)、●南スーダン(東アフリカ/同約27%)、●マリ(西アフリカ/同約26%)……
西アフリカ諸国の中にも貧困者削減に成功したケースはあるものの、過去数十年にわたって世界の貧困層が「サブサハラ・アフリカ地域(サハラ砂漠以南)」に集中し続けていることは、世界にとっての大きな懸念材料となっています。
世界銀行が試算した「国際的貧困ライン」では ──(サブサハラ・アフリカ地域に暮らす「1日に使えるお金が100円未満」の最貧困層の割合は、1990年に推定56%だったが、25年が経過した2015年におよんでも35%におよぶ)── としています。加えて、世界規模で見ると「1日200円以下で暮らす貧困層」の数は数十億人にのぼり、紛争や一次産品の輸出に依存する地域・国では、貧困の度合いと規模が拡大する傾向にあります。
※世界銀行が公表している数値は、2005年時点で「購買力平価に基づき〈国際的貧困ライン〉を1日1.25ドル」と設定していましたが、2015年においては国ごとに異なる生活コスト(購買力平価ベース)を更新したことで、「1日1.90ドルの〈国際的“新”貧困ライン〉となっています。
この新貧困ラインに基づく試算によると、先述した通り世界の貧困層は、2012年/9億200万人(世界人口の12.8%)から、2015年/7億200万人(世界人口の9.6%)に減少する、と予測されています。
── 今回、Microfinanceのアウトラインを駆け足でご紹介しましたが、紛争、戦争、自然災害などが世界各地で多発し、Microfinanceのみで貧困状態に陥っている人びとを救うことは到底かないません。しかしながら多くの調査や事例をたどっていくと、Microfinanceが数百万世帯の家族の生活を向上させ、その日暮らしの困窮状態から脱出する手立てとなっていることも、また確かな事実のようです。
次回は、Microfinanceのテーマを継続させながら、グラミン銀行の取り組みや世界での成功事例をご紹介したいと思っています。
≪記事作成ライター:岩城枝美≫
東京在住。大手情報サービス企業を退社後フリーランスに。二十年余にわたり、あらゆるジャンルの取材・執筆、ディレクションに携わる。
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