時代によって変わるものやサービスの値段。たとえば新しく開発された商品が社会に普及するまでは非常に高かったのに、いったん普及して多くの人が使うようになると、びっくりするほど安くなる……というのはよくあることですね。
逆に、昨日まであった商品がなくなってしまうこともあります。
この変化には人々の好みや技術革新、その時代の社会の仕組みなど、実にいろいろな要素が関係しています。さらに、「高い」「安い」の基準になっている貨幣価値も時代によって大きく変わりますが、さまざまな分野のものやサービスの「お値段」を比較して、その意味を考え直してみましょう。
第一回目は「カラーフィルム」です。
世界初のカラーフィルムから、「インスタ映え」まで
2017年に「インスタ映え」という言葉がはやったように、現在ではスマホに付属するカメラ機能で日々の暮らしの一シーンを気軽にカラー写真に撮って、世界の人と共有できる時代になりました。しかし、かつてはカメラを持っていても、別にフィルムを用意して、さらに、写真は現像に出さなければなりませんでした。写真を撮影して友達と共有することには、とてもお金がかかっていたのです。
写真の技術が発明されたのは、19世紀半ばのこと。つまり、私たちの生活に根づいた写真は、まだ200年程度の歴史しかありません。そして、白黒写真が発明されたのち、世界で初めてカラーフィルムが発売されたのは、20世紀になってから。カラー写真は、人々にとってどんなものだったのか、カラー写真の「お値段」、とくに今回はカラー写真フィルムについての歴史を少しひも解いてみましょう。
多方面で大きな影響力をおよぼした写真術
1839年にフランスの画家・ダゲールによって発明された写真術。
日本でも明治時代後半から昭和初期にかけて写真は急速に普及し、アマチュアカメラマンが写真を楽しむようになると同時に、戦争や自然災害の記録・報道、マスコミュニケーション、民族・風俗の研究、解剖学、地理、軍事、芸術表現などに応用され、さまざまな分野で大きな影響力を持ちました。
赤・緑・青の原色からなるカラー写真の原理
人間の目には異なる波長の光に感じる神経細胞が3種類あって、それが赤・緑・青の3つの色に対応しています。これが「原色」と呼ばれるもので、人間はこの3種類の神経の刺激の組み合わせによってたくさんの色を感じています。
カラーフィルムは、色をこの3原色に分解して、合成して定着する技術を原理としており、プラスティックの薄い膜に3原色の光に反応する薬品を塗ってあるのがカラーフィルムです。
世界初のカラーフィルムはコダック社のコダクロームという商品でしたが、紙に現像するのではなく、リバーサルフィルム(ポジフィルム)でスライドにして映写機で見ました。
白黒テレビも普及していなかった時代に、自分で写したカラー写真や映像をスクリーンに映写してみるのは大きな楽しみで、アマチュアカメラマンらに大きな人気となりました。
世界で3番目のカラーフィルム──18枚撮り=1本10円
ドイツに続いて、世界で3番目のカラーフィルムの開発に取り組んだのはコニカの前身、日本の小西六写真工業でした。時代は太平洋戦争が始まる前年、1940年のこと(1987年にコニカ株式会社と改称)。
さて、当時の値段は、35ミリ18枚撮りで1本10円。小学校教員の初任給が50円〜60円の時代ですから、現在の価値に換算すると一本数万円になるでしょうか。現在の感覚からするとずいぶん高いものでしたが、ジャーナリストや軍関係を中心にかなりの需要があり、1944年に販売が中止されるまでに約20万本が売れたといいます。白黒写真の価格は確実な数字がないのですが、すでにかなり普及していましたから、価格はこれより安いものだったはずです。
いま再び、「写ルンです」の人気再燃中!
戦後、ネガフィルムから比較的簡単にプリントをつくる方法が開発され、手軽となったカラー写真は世界中で爆発的に普及しました。ご存じのようにデジタル写真の技術が進み、現在ではフィルムなしのデジタル写真の撮影が一般的になっています。
一方で、10 〜20 代の人気のある歌手やモデルなどが「フィルム付レンズ」として大流行した「写ルンです」を使って写真を投稿し始めたことを契機に、その人気が急再燃しているとのこと。なぜ懐かしのインスタントカメラが流行の兆しを見せているのか……。その理由はさまざまなようですが、
●フィルムを巻くときのギリギリという独特の音に、郷愁を感じる
●現像されるまで写真がどんな仕上がりになっているかわからないドキドキ感がある
●スマホの写真と違い、仕上がりに独特の味わいがある
●年上の人にとっては懐かしいものかもしけないけど、10代にとってはとても新しいもの
と、その感じ方はさまざまながら、Instagramで「#写ルンです」を検索すると、なんと15万件以上の投稿が! 人気に火をつけた中心層は女子大生や10代、20代の若者のようですが、ここにも、ものやサービスの価値の変遷が見てとれますね。
── 次回は、カメラそのものについての歴史をのぞいてみましょう。
≪記事作成ライター:帰路游可比古[きろ・ゆかひこ]≫
福岡県生まれ。フリーランス編集者・ライター。専門は文字文化だが、現代美術や音楽にも関心が強い。30年ぶりにピアノの稽古を始めた。生きているうちにバッハの「シンフォニア」を弾けるようになりたい。