確定申告を行う場合、扶養や医療費控除など所得控除を申告することで税額を下げることができ、サラリーマンであれば通常還付金が得られる。
なんらかの投資を行っている場合、その申告の仕方によっては所得控除の額にも影響することはご存じだろうか?
所得合計の概念から、所得控除の計算の仕方、投資に対する各種所得の特徴をおさえておきたい。
合計所得金額と総所得金額等の違い
所得の合計を表す概念として、合計所得金額と総所得金額等がある。いずれも申告したすべての所得が含まれることには違いない。
この2つの違いは、前年以前(過去3年間)に発生した損失を差し引くことの取り扱いにある。合計所得金額はあくまでもその年の所得を合計したものであり、繰り越した損失は差し引かない。
しかし総所得金額等は課税される所得の計算で用いる概念であり、こちらは繰り越した損失を差し引く。
所得が高いと有利な所得控除
所得控除は所得を引き下げるので、同じ控除額なら所得税率の高い高所得者ほど節税効果は高い。
しかし所得の高さに応じて控除限度額が大きくなる所得控除は、寄付金控除ぐらいである。普及してきた「ふるさと納税」もこれに該当する。
所得税の寄付金控除の算式は、寄付金の額―2,000円であり、これ自体に所得は関係無い。所得が関係するのは「寄付金の額」の上限額であり、総所得金額等×40%である。
住民税の場合は寄付金税額控除となり、下記の計算による額が住民税額から差し引かれる。
(寄付金の額―2,000円)×住民税率(通常10%)
住民税の場合は、「寄付金の額」の上限が少し異なっており、総所得金額等×30%である。
なおふるさと納税に関しては、住民税の控除額がさらに増え、下記の算式に基づく特例控除が加わる。
(寄付金の額―2,000円)×(1-住民税率―所得税率)
この算式の上限は、税額控除前の住民税所得割額×20%である。住民税所得割額は所得に応じた税額のため、特例控除も所得が高いほど大きくなる。
所得が低いと有利な所得控除
所得控除は所得を押し下げ税負担を和らげる福祉的性格も持つので、所得が低い方が有利になる控除のほうが圧倒的に多い。ただ所得がどう反映されるかは、下記の3つに分類される。
合計所得金額を判定要件とするもの
合計所得金額を判定要件とするもので有名なのは、扶養控除である。38万円以下が扶養範囲内である。
その他、税額控除である住宅ローン控除を含め、合計所得金額を判定要件とするものは下記の通りである。()内が合計所得金額の要件である。
・扶養控除(扶養の対象者38万円以下)
・配偶者控除(本人1,000万円以下・配偶者38万円以下)
・配偶者特別控除(本人1,000万円以下・配偶者123万円以下)
・障害者控除(本人以外38万円以下)
・寡婦(夫)控除(本人の要件500万円以下)
・勤労学生控除(本人65万円以下)
・基礎控除(本人2,500万円以下 ※2020年以降)
・住宅ローン控除(本人3,000万円以下)
扶養・障害者・寡婦といった、人に関わる所得控除が多いことがわかるだろう。また贈与税の一部特例を利用する際にも、合計所得金額による制限がある。
総所得金額等を判定要件とするもの
寡婦(夫)控除には、本人の合計所得金額要件があることは説明した。この制度は配偶者と離婚もしくは死別したひとり親のための制度であるが、養っている(生計を一にする)子の要件が総所得金額等に関わる。
生計を一にする子の要件が総所得金額等38万円以下という、扶養控除の要件と紛らわしいものがある。繰越損失を差し引いた後の所得合計が38万円以下という意味なので、必ずしも子が扶養範囲内である必要はない。
総所得金額等×割合を控除額から差し引く(足切とする)もの
代表的なものとして医療費控除がある。医療費控除額の算式は以下のとおりである。
医療費の額 - 保険金等で補てんされる金額 - 足切額
(足切額 = 10万円と総所得金額等×5%のいずれか低い方)
総所得金額等が200万円以下の場合は、足切額が10万円より低くなる。つまり所得が低くなると、医療費控除額が高くなる余地がある。
また震災被害にあったり、盗難で損失が生じたりした場合などには雑損控除が活用できるが、この算式は医療費控除と似ている。
損失の額 - 保険金等で補てんされる金額 - 足切額
(足切額 = 総所得金額等×10%)
FX・仮想通貨の取り扱い
FX取引は先物取引等に係る雑所得に該当し、仮想通貨取引は雑所得に該当する。両者の違いは、FX取引であれば前年以前3年間に生じた損失を繰越控除できることにある。
また仮想通貨取引で生じた損失は、他に雑所得(公的年金・原稿料ほか)が生じた場合のみ相殺でき、合計所得金額や総所得金額等の計算にもこれが反映される。なおFX取引は、この雑所得には該当しない点に気をつけたい。
FXのように先物取引等に係る雑所得に該当する場合は、他にも気をつけるべき点がある。繰越控除が行われた場合は、その控除額だけ合計所得金額と総所得金額等が変わる。
例えば2018年中に生じた所得が80万円、2017年分で繰り越した損失が50万円の場合、課税対象となる所得は30万円と計算される。2018年中は他に給与所得が400万円あったとすれば、総所得金額等は430万円である。
しかし合計所得金額は、50万円の繰越控除は考慮しないので480万円になる。合計所得金額を基準とするものには注意しておきたい。また繰越控除を考慮すると、ふるさと納税だけは不利になることは頭に入れておきたい。
不動産所得の取り扱い
不動産投資のセールストークとしても有名だが、不動産所得で損失が生じた場合は給与所得など他の所得と損益通算が可能である。合計所得金額・総所得金額等ともに損益通算は反映されるが、この損失はFXや株式で生じた所得とは相殺できないことも気をつけたい(仮想通貨は可能)。
例えば2018年の給与所得が400万円で不動産所得が△30万円であれば、合計所得金額・総所得金額等ともに370万円である。
なお不動産所得について青色申告を行っていた場合は、先ほどFX取引で説明したような繰越控除(純損失の繰越控除)の利用が可能である。純損失の繰越控除についても、合計所得金額では考慮しない点については気をつけたい。
上場株の取り扱い
株式についても繰越控除の制度があり、また上場株式の売買で生じた損失を上場株式の配当所得と損益通算することは可能である。国債利子なども2016年以降は、上場株配当とほぼ同じような扱いになった。
株式においても損益通算は合計所得金額・総所得金額等ともに反映されるし、繰越控除は合計所得金額で考慮しない。
上場株において特有の視点であり、また他にはない複雑な点もある。これは源泉徴収がされている配当所得や譲渡所得(源泉徴収特定口座)に対する申告方法が多様なところから来ている。
基本は合計所得金額・総所得金額等に算入しない
所得税15.315%・住民税5%が徴収された配当所得や譲渡所得に関しては、すでに納税が完了していることから、確定申告の対象としないのが原則である。
この場合は、配当所得や譲渡所得は合計所得金額・総所得金額等に算入しない。給与所得400万円の他に配当所得が30万円あったとしても、年末調整しか行っていない場合は合計所得金額・総所得金額等は400万円になる。
分離課税で申告すると合計所得金額・総所得金額等を押し上げる
配当所得や譲渡所得を分離課税で申告した場合、翌年以降に繰り越せる損失が生じている場合を除き、合計所得金額を押し上げる。
前年以前から生じた繰越損失が30万円あり、当年度の配当所得+譲渡所得が30万円ある場合は、総所得金額等に加わるのは0円だが、合計所得金額は30万円プラスされる。
ふるさと納税の控除額を拡大させるには、総所得金額等が増えないと意味がない。また繰越損失のある人で扶養範囲内に所得を納めたい場合は、合計所得金額に注意すべきだ。
また国民健康保険に加入している場合は、総所得金額等の増加で保険料が増える点にも気をつけたい。
総合課税での配当申告の注意点
総合課税での所得税率は課税所得によって変動し、また配当控除が利用できる場合は実質的な税率が最大10%減少する。実質的な所得税率が15.315%を下回る場合は、配当所得を総合課税で申告する方法もある。
この場合損失との相殺はできなくなるため、申告した金額だけ総所得金額等・合計所得金額とも確実に押し上げる。
また総合課税の所得を押し上げることで、児童手当などの手当をもらっている場合は、所得審査上不利になる点も注意が必要だ。
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