1年間に得た所得に係る税金には、国にかかる所得税のほかに、地方自治体に払う住民税もある。住民税の税額や所得情報を基に決まる制度も多く、住民税の理解は重要である。
住民税の税額・非課税基準や控除には、所得税との比較を含めてまぎらわしいものが多数ある。誤解しやすい概念を整理しながら理解していくと、所得制限のある制度が利用できるかの基準の理解にもつながる。
均等割と所得割の違い
住民税は税額算定方法の違いにより、均等割と所得割の2つある。このほかに株式配当や国債利子などが天引きされるものがあるが、所得制限を理解するにあたっては、均等割と所得割が理解できれば十分である。
均等割は定額で課される住民税であり、所得割が所得に応じて税額が変わる住民税である。
均等割は次に説明する非課税に該当しなければ、誰でも等しく5,000円(一部若干異なる自治体あり)であり、これは単純に算定される。所得割は収入・経費・控除に基づいて段階的に計算され、中にはこれから説明するように紛らわしい概念もある。
均等割非課税と所得割非課税の違い
住民税非課税世帯は、様々な優遇制度を受けられる。住民税非課税は紛らわしい概念である。所得割非課税と均等割非課税の2つが定められているからだ。
2020年度の所得割非課税は、所得の合計が32万円+35万円×(扶養親族等の数+1)以下なら適用される。ただし扶養親族等がいなければ35万円となる。2021年度以降は、基準が10万円プラスされる。
均等割非課税は所得割も非課税になる範囲なので、所得割非課税より狭い範囲となる。また世帯全員が均等割非課税に該当すると、住民税非課税世帯となる。
全国一律の基準としては生活保護受給者のほか、2020年度は障害者や寡婦・寡夫であれば合計所得金額125万円以下が均等割非課税となる。2021年度以降は、未婚ひとり親も含めて合計所得金額135万円以下に拡大される。
地域ごとに違う基準もあり、大都市(1級地)では合計所得金額が21万円+35万円×(扶養親族等の数+1)以下で均等割非課税に該当する。扶養親族等がいない場合は35万円である。
しかし低い所(3級地)では、合計所得金額が16.8万円+28万円×(扶養親族等の数+1)以下で均等割非課税に該当する。扶養親族等がいない場合は28万円である。
2級地はこの中間であり、同じ級地でも万円単位で自治体間に若干の差がある。
均等割と所得割の非課税で異なる所得合計
均等割と所得割の非課税要件において所得の合計方法が少し違っており、投資や事業で過去3年間損失が生じていた場合は、所得割非課税判定では差し引くが、均等割非課税判定では差し引かない。
所得控除と税額控除の違い
所得税や住民税の節税を考える場合、所得控除と税額控除の区別ができていないと誤った節税策に出る危険性もある。諸制度の所得制限を考えるにあたっても、この区別は重要になる。
この区別を行うには所得割の税額計算をおさえることが重要である。給与所得、事業所得など10種類の所得をまずそれぞれ計算する。それぞれの所得を合算したうえで、「所得控除」を差し引いて課税所得(課税標準)が計算される。
課税所得に原則10%をかけて一旦所得割の税額が計算され、「税額控除」を差し引いて最終的な所得割額が決まる。
年末調整で申告できるものの大半は所得控除である。扶養控除のほか、社会保険料控除・生命保険料控除・医療費控除など10余り存在する。住宅ローン控除・配当控除・外国税額控除などは税額控除である。
例えば10種類の所得合計が300万円、所得控除の合計額が50万円となる場合、課税所得が250万円となり、ここに10%をかけると所得割額25万円となる。寄附金税額控除額が5万円であれば、所得割額は20万円に下がる。
所得税では所得控除、住民税では税額控除に該当するものもある。有名なふるさと納税のほか、寄附金の多くが該当する。
調整控除後所得割とは
住民税だけに存在する税額控除が調整控除である。所得税率と住民税率を大きく変えた2007年度以降に、主に課税所得の低い層が不利益を被らないようにできた制度である。
所得控除のうち扶養控除など人の属性に関わるものは、所得税より住民税における控除額が低くなっている。(5万円+所得税と住民税の控除差額)×5%が調整控除額の最大値であるが、課税所得によってはこれより低い金額となり、5万円×5%=2,500円まで下がることもある。
調整控除後所得割とは、課税所得に原則10%をかけて一旦計算した所得割から、税額控除のうち調整控除だけで差し引いて計算した所得割額である。寄附金税額控除・住宅ローン控除などは差し引かない。
寄附金税額控除のうちふるさと納税は、しばしば住民税の2割が限度と言われる。この住民税がまさしく調整控除後所得割を指す。
調整控除後所得割は諸制度でも重要な指標に
調整控除後所得割は、ふるさと納税のような税制以外の制度でも広く使われるようになりつつある。
制度の事例は追って説明するが、重要な指標になっている1つの理由は、ふるさと納税が過度な利益追求に使われ問題視されていることにある。
ふるさと納税は、地方自治体への寄附額の一部が寄附金税額控除に該当し、住んでいる自治体への住民税所得割額を下げることができる。
納税額としての所得割が所得制限となっている制度では、ふるさと納税を行うと有利になる。
ふるさと納税は過度な返礼品が大きな問題になっていたが、所得制限でも批判を受けて基準を変えた制度もある。調整控除後所得割はふるさと納税の控除額で基準となっているが、これを他の制度でも基準とすれば、ふるさと納税で有利になることもなくなる。
ただ調整控除後所得割を基準とした場合は、住宅ローン控除や外国税額控除など他の税額控除も反映されなくなることに気をつけたい。
住民税を基準とする制度の例1:すまい給付金
ここからは住民税額を所得制限とする制度の例をいくつかあげたい。まず1例目として所得制限付き給付金を挙げたい。
新型コロナに関係なく得られる大きな給付金として、住宅を取得した際にもらえるすまい給付金が挙げられる。
すまい給付金の所得制限は、都民税・道府県民税の所得割額に基づく。この所得割額はすまい給付金公式サイトでは、調整控除を差し引いた後の所得割とされている。
都民税・道府県民税の標準税率は4%だが、政令指定都市においての道府県民税は2%であり、また神奈川県のように2%でも4%でもない自治体もある。
税率の違いで給付金の基準に不平等が出てはいけないため、税率差を反映した所得割の基準額が設けられている。
道府県民税所得割 | 給付基礎額 |
76,000円以下 | 50万円 |
76,000円超97,900円以下 | 40万円 |
97,900円超119,000円以下 | 30万円 |
119,000円超140,600円以下 | 20万円 |
140,600円超172,600円以下 | 10万円 |
表1:すまい給付金の給付基礎額(住宅ローンを利用する場合)
表1は都民税・道府県民税の税率が4%、取得した建物の消費税率が10%の場合に適用される。なお住宅ローン控除を利用しない場合、道府県民税所得割が133,000円を超えると給付を受けられない。4%でない自治体は4%との自治体と公平を保つように別途決められている。
給付基礎額は、そのままもらえるわけではない。夫婦で2分の1ずつ共有しているような場合は、給付基礎額が50万円でも各々に25万円ずつとなる。
住民税を基準とする制度の例2:授業料・保育料
教育費においても、住民税が基準となっている。ただし、すまい給付金と異なり都民税・道府県民税ではなく、区民税・市町村民税を基準としている。
またここでは保育料と高校の授業料を取り上げるが、基準となる指標がそれぞれの制度で異なっている。
まず保育料は、市町村民税の調整控除後所得割を基に決めている。市町村民税の標準税率は6%だが、こちらも自治体によっては税率が異なる。ただ保育料の決め方は、そもそも自治体にゆだねられている。
高校授業料の補助は、市町村民税の課税所得×6%―調整控除を基に決めている。所得割という言葉は使っていないものの、実質的には標準税率を適用した市町村民税の調整控除後所得割である。
市町村民税の課税所得×6%―調整控除の金額に応じて、授業料の補助額が定められている。
市町村民税の課税所得×6%―調整控除 | 補助額 |
154,500円以上304,200円未満 | 118,800円 |
154,500円未満 | 396,000円 |
表2:高校授業料の補助額(私立・全日制の場合)
高校授業料の補助は、以前は納税額としての所得割に基づいていたが、ふるさと納税などの税額控除が反映されない形に変更された。ただ扶養控除・保険料控除などの所得控除は反映されるので、所得控除による節税は教育費の節減にも役立つ。
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