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アメリカがまたも一方的に、世界の合意を反故にしました。そして、自国で決めた制裁を他国の企業にまで適用しようとしています。貿易戦争のヒートアップが注目をさらってしまっていますが、イランの核合意からの離脱の話です。6月8日付の日本経済新聞によると、米国はSWIFT(スイフト、国際銀行間通信協会)からのイラン遮断も検討しているとされます。SWIFTは200以上の国や地域の金融機関が参加する非営利組織で、ほぼ全ての国際送金を担っています。このためイランがSWIFTから遮断されれば、どの国の企業も、資金の受け払いが必要となるようなイランとの取引が不可能になります。実際にこうした米国の方針を受けて、仏石油大手トタルや仏自動車大手PSAなどが既にイランでのビジネスの撤退を決定、或いは検討しています。基軸通貨の米ドル(以下、ドル)を持ち、それによって実質的に国際決済システムを牛耳っている米国にとっては、このやり方は一見非常に強力な圧力手段に見え、実際そうなってきました。しかし、それが今や、米国自身にとって非常に危険な戦略にもなりかねないと思われます。

基軸通貨をカードとして使ってきた米国

米国は金本位制を1971年に完全に廃止しており、米ドルが基軸通貨として認められているのは、その利便性と米国への信頼に因っています。利便性については、石油が従来ほぼドル建てでのみ取引されてきたように、貿易や対外投資などでの決済に一番使われている通貨であること見ても分かります。SWIFTの発表 によると、2017年12月時点の世界通貨取引額ランキングでは、1位の米ドルは全体の39.85%を占めました。ユーロが35.66%と僅差で続き、その後は7.07%の英ボンド、2.96%の日本円となっています。また為替市場においてもドルが基準通貨となっており、多くの場合、ドルを介して通貨交換が行われます。例えば日本円をスイスフランに交換しようとする場合、実は裏側では、日本円をまずドルに換え、そのドルをスイスフランに換えるという形での計算が行われています。つまり、ドルは多くの国際間商取引で利用でき、また他通貨にも替えやすいため、現在の社会では基軸通貨となっていると考えられます。

しかし最初に述べたように、米国がこの「基軸通貨」を他国との交渉のカードとして使おうとするなら、交渉の相手国にとっては、ドル中心の金融システムに依存するのは非常に危険だということになります。実際に、過去に米国からの制裁を受けた国は、ドル離脱に向けた努力を行ってきました。2000年にイラクは、それまでの米ドル決済のみだった石油販売を、ユーロ建てで行いました。2017年9月には、ベネズエラが人民元建てでの石油価格の提示を始めました。ロシアやイランも、中国向けの石油の輸出で人民元建て決済を受け入れているとされます。しかし、こうした動きはそれぞれが小粒であり、ドルの基軸通貨としての地位を脅かすには至りませんでした。

中国が人民元の影響力拡大を狙うも、まだ力不足か

しかし、トランプ政権下の米国は、欧州や日本などの同盟国にさえ2次的制裁を厭わない構えを見せています。ドル中心の金融システムに依存する現状を不安視する向きは、中東や中ロを超えて広がる可能性があります。特に、人民元の国際化を狙う中国の動きは活発です。今年3月26日に、中国では人民元建ての原油先物が上場し、取引を開始しました。人民元建ての石油取引を広げたい考えが明白です。中国は2017年に世界最大の原油輸入国となっており、シェールオイルの生産拡大で石油輸入が急減している米国を尻目に、中東での影響力を相当高めています。米国との関係に微妙な空気も流れるサウジアラビアなどが人民元建ての取引を受け入れれば、いわゆる「ペトロダラー」の地位は大きく揺らぐ可能性があります。

しかし、人民元が基軸通貨となれるかというと、それはまだ考えにくいのが実情です。人民元は管理変動相場制で、中国当局の裁量が入る余地が大きいことがまず問題視されます。また資本の自由も制限されているほか、海外の取引相手が受け取った人民元を柔軟に運用できるような国内証券市場も十分育っていません。先のSWIFTのランキングでは、人民元は5位につけるものの、その比率は1.61%にすぎません。ランキングで2位につけるユーロも、現在南欧で再び問題を抱えており、基軸通貨としては心もとありません。

新技術が浸透すれば、基軸通貨としての地位が一気に変わる可能性も

6月8日付の日本経済新聞 によると、プーチン大統領はテレビのインタビュー番組で、米国からの制裁を回避するために仮想通貨の活用を検討する意向を示したとされます。具体的にどのような仮想通貨を念頭に置いていたかは別として、ブロックチェーンを使った国際送金の実験は実際に世界各地で行われ始めています。前述のスイフトでは、国際送金に日数やコストがかかり、使いにくいとの不満は従来から大きく聞かれていました。しかしブロックチェーンを使った実験では、非常に迅速かつ低コストでの送金が可能になっています。国内金融機関の例では、三菱UFJ銀行と三菱商事が今年5月、タイのアユタヤ銀行(三菱UFJ銀行の現地子会社)からシンガポールの銀行にシンガポール・ドルの送金の実験を開始しています。こうした新技術がスイフトに取って代わる可能性は小さいとは決して言いきれません。また、そうしたブロックチェーンを使った新たなシステムの中で使われる基準通貨がドルではなく、どの国の通貨からも独立したデジタルコインになった場合は、さらにドルの基軸通貨としての価値は毀損する可能性が高まります。日本円からスイスフランに換える場合、現在のようにいったん円をドルに換えるのはなく、いったんデジタルコインに換えるというイメージです。

基軸通貨のもう一つの根拠である米国の信頼性も、トランプ政権下で低下しているように感じられます。米国は基軸通貨を他国との交渉カードとして使うことで、不安を感じる人たちの技術開発を加速させ、カード自体を失うタイミングを速めている可能性もあります。

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北垣愛 国内外の金融機関で、グローバルマーケットに関わる仕事に長らく従事。証券アナリストとしてマーケットの動向を追う一方、ファイナンシャルプランニング1級技能士として身近なお金の話も発信中。