7月に産経新聞が突如スクープの扱いとして、金融庁がビットコインをはじめとする暗号通貨について、資金決済法から金融商品取引法への変更を検討していると報道した。金融庁としては、即座にその様な検討をしていないと回答を行ったが、近い将来、暗号通貨が有価証券となる事は必然だ。
暗号通貨の考え方が変化。10万円前後の頃は支払手段だった
ビットコインが一躍有名になった数年前、我々が各種報道で耳にしたのは、「ビットコインで買い物が出来る様になる」というものであった。日本のカントリーリスクがある円でも、米国のカントリーリスクがある米ドルでもなく、世界共通であり、また特定の誰か(例えば日銀)が管理しているものでもないとして、大手家電でもビットコインで買い物ができると話題になった。この時点ではビットコインについてはあくまで「買い物が出来るもの」であり、まさしく「資金決済」、支払手段であった。
価格急騰により投資商品の色が強まる
しかし2017年頃から、ビットコインが急騰し始め、10万円程度だったものが約一年間で200万を突破。この急騰からその支払手段としての機能よりも、価格が急騰し「儲かる物」として注目されるようになり、投資商品としての色が強まりだした。また、「裏付資産がない」と言われだしたのもこの時期だ。
支払手段からの本質の変化
支払手段だけを見る場合、その裏付けは「信用」となる。ビットコインの場合はブロックチェーンでつながるサーバや個人PC,いわば「インターネット」が破綻しなければその信用力は担保される。一か国の中央銀行が破綻する可能性と、世界中のインターネットが破綻する可能性を比較すれば、破綻可能性が低いのはおそらく後者だ。その信用力は一か国、またEU等の国家連合、場合によっては国連の信用力を凌駕する可能性もある。支払手段としてはビットコインについては大きな可能性を秘めていた、しかし投資商品の色が強まるにつれて本質が変化していった。
ICOブームにより有価証券となった。
特に近年のICO(イニシャル・コイン・オファリング)がブームになりだしたことにより、暗号通貨は有価証券となった。ICOとは、「企業が各種事業・プロジェクトを行うための資金調達を暗号通貨によって募集するもので、投資家側としてはその暗号通貨が取引所に上場した後に売却すれば利益が発生する可能性がある物」である。現状は暗号通貨=資金決済手段、支払手段という建付けであるためにこのICOに対しては明確な規制が存在してないが、上記の「各種事業・プロジェクト」が「ビジネス継続」に、「暗号通貨」が「株式」に変われば株式におけるIPO(イニシャル・パブリック・オファリング)に何ら変わらない。IPOが「企業自体」に対する出資であれば、ICOは「プロジェクト」に対する出資との違いしかない。ならば株式同様に有価証券扱いされるのは当然だ
有価証券なのであれば金融商品取引法へ移行は当然だ
また株式と性質が変わらないのであれば、少なくとも株式と同程度には投資家保護が必要になる。ICOがインターネットを通じて世界中から資金を集める事からも、最低限そのプロジェクトが本当に存在する事を誰かが調査・保証する必要があるだろうし、その資金が当初言われていたプロジェクト以外には利用されない事をモニタリングする必要もある。一流企業であってもプロジェクト単位では失敗することは珍しい事ではない。その成否を一投資家が見極める行う事は極めて難しいことからも、証券会社等のしかるべき部署(例えば上場審査部に近しい部署)がモニタリングして行く必要があるだろう。であれば、根拠法を金融商品取引法に変更すべきだ。
金融商品取引法への移行は本来歓迎すべき
インターネット上では、金融商品取引法への移行について反対、ネガティブな意見が散見されるが、金融商品取引法の本質は「投資家保護」である。まともなプロジェクトによるICOや暗号通貨の発行であれば本規制が導入されても問題ないはずだ。また、現状のICOの成功率を見る限り、かなりのハイリスクハイリターンとなってしまっている。自身が取れるリスクに適応するのかどうかを客観的に見える指標も必要だと考えると、金融商品取引法への移行は本来歓迎すべきものであるはずだ。
暗号通貨が金融商品取引法に近く移行することは間違いない。ただその移行時においては「プロジェクトに対する出資スキーム」としての暗号通貨およびICOが一般化、適合化するまでには一度整理が行われる事が想定される。その際にはおそらく市場の混乱も起きるだろう。その試練に暗号通貨が絶える事が出来た時に、有価証券市場において暗号通貨は市民権を得る事が出来るだろう。