地震保険

1995年の阪神大震災、2011年の東日本大震災、そして昨年の熊本地震……。

甚大な被害をもたらす大地震は、いつ・どこで起きるかわかりません。とくに地震への危機感が高まっている近年、万一の備えとして加入を検討したいのが「地震保険」です。
ただ、地震保険は他の保険と比べて認知度・加入率ともに低く、まだまだ社会的に浸透していないのが現状のようです。そこで今回は、この機会にチェックしておきたい地震保険の仕組みや重要性について、詳しく見ていきたいと思います。

官民一体の損害保険制度

地震・噴火・津波による災害で発生した損失を補償する地震保険は、1966年(昭和41年)、国と民間保険会社が共同運営する制度として誕生しました。大地震が起きると一度に多くの保険金(補償金)を支払う必要があるため、民間だけではまかないきれないケースも考えられます。そこで、被災した契約者を等しく補償するために、国も支払いに責任を持つことになっているのです。

津波による被害が大きかった東日本大震災での支払総額は、過去最大額の1兆3113億円となりましたが、現行の制度では11兆3000億円まで支払える仕組みとなっています。また、官民一体の保険制度であることから、どの保険会社と契約しても保険料や補償の対象は変わりません。

火災保険とのセット加入が原則

地震保険は単独では契約できず、火災保険とセット(オプション契約)で加入します。地震保険を付けず火災保険のみでも契約できますが、火災保険では地震による火災は補償されません。一方、地震保険を付けて加入すれば、地震による火災・津波・地滑りをはじめ、噴火による溶岩や火山灰などで被害を受けた場合にも保険金が支払われます。

ただし、契約できる保険金額は火災保険の30~50%(建物5000万円、家財1000万円)が上限で、1個あたり30万円以上の物品(貴金属、芸術品など)や自家用車は補償対象外となっています。たとえば、2000万円の火災保険に加入した場合、地震保険の保険金額は1000万円まで。自宅を再建する金額には及びませんが、保険金の使い道は自由なので、家財・家電の買い替えや処分費用、住宅ローンの返済や仮住まいの家賃、引っ越し費用など、緊急時のまとまった資金として役立てることができます。よって、一戸建ての持ち家に住んでいる人だけでなく、分譲マンションや賃貸住宅に住んでいる人も、加入を検討する価値は大きいといえるでしょう。

このように、地震保険は被災後の生活再建の支援を主眼としており、保険金が迅速に支払われるのも他保険にはないメリットとなっています。東日本大震災や熊本地震では発生から4ヵ月以内に、9割以上の支払いが完了したそうです。

保険金の支払い基準は4段階で判定

地震保険で支払われる保険金は、建物・家財の被害の程度によって「全損・半損・一部損」の3段階に分けられていましたが、2017年1月1日より「全損・大半損・小半損・一部損」の4段階に細分化されました。

【4段階の損害区分】

●全損………契約金額の100%が支払われる(時価額が限度)
●大半損……契約金額の60%が支払われる(時価額の60%が限度)
●小半損……契約金額の30%が支払われる(時価額の30%が限度)
●一部損……契約金額の5%が支払われる(時価額の5%が限度)

4区分の支払い基準は、建物・家財の損傷の割合や、時価額に対する被害額の割合によって判定されます。建物については、主要構造部の損害額や焼失・流出した床面積をもとに判定。家財については、家財それぞれが受けた損傷の状態ではなく、一般的に所有されている代表的な家財を項目ごとに分け、損傷した項目がいくつあるかで家財全体の損害割合を算出します。

もし「一部損」と判定された場合、支払われる保険金は決して多くはありませんが、地震によってどんな形で被災するかは誰にも予測できません。テレビやレンジが落ちて壊れたり、ストーブが倒れて火事になったり、津波や崖崩れで家が流されたり……。いずれにしても、地震を原因とした災害の補償には、地震保険がマストであるということは知っておいてください。

地震・噴火・津波による被害を補償する官民一体の制度として、その重要性があらためて注目されている「地震保険」。

前回は地震保険の基本的な仕組みや、保険金の支払い基準について見てきましたが、気になる保険料はどのような基準で決められているのでしょうか?
そこで今回の《Part.2》では、地域や建物のリスクに応じて異なる地震保険の保険料にフォーカス。自分の住んでいる地域や建物の保険料はどれくらいなのか、ぜひこの機会にチェックしてみてください。

都道府県や建物構造によって異なる保険料

地震保険の保険料は全国一律ではなく、地域による地震のリスクや建物の構造によって異なります。
地域による地震リスクは、都道府県ごとに1等地(リスクが低い)~3等地(リスクが高い)の3つの等地に分類され、その区分によって保険料を算出する仕組みとなっています。この区分は国が公表している「全国地震動予想地図」のデータに基づいており、地震発生の確率や被害の受けやすさから支払額を予想し、長期的な負担が公平になるように決められています。

建物については、耐火性の高い鉄骨造・コンクリート造のほうが木造より保険料は低めです。また、耐震性の高い建物や免震構造の建物には、保険料の割引制度が適用されます。
●新耐震基準の建物(1981年6月1日以降に建築確認を受けた建物)……10%割引
●耐震・免震構造などの建物……10%~50%割引

段階的に引き上げられる保険料

地震保険の保険料は2014年7月の引き上げに続き、今年(2017年)1月にも全国平均で5.1%引き上げられました。東日本大震災を受けて地震に関する基礎データ(震源モデル・地盤データ・被害関数など)が見直され、より大きな地震を想定するようになったためです。さらに、保険料率の改定は2019年・2021年にも予定されており、最終的な保険料の引き上げ率は14.2%になると見込まれています(地震の発生確率・被害状況の試算によって引き上げ率は変動)。

今年1月の保険料率の改定では、前回ご紹介した損害区分(3区分から4区分へ)や、都道府県の等地区分(上表参照)も変更となり、都道府県によっては保険料が値下がりするケースもあります。たとえば、愛知県などは3等地から2等地へと区分が下がり、保険料も10%以上値下がりしました。ただし、等地区分や保険料が下がったのは、地盤や建物などの要素を含めて見直した結果で、地震のリスク自体が下がったというわけではありません。

「加入率の低さ=危機意識の低さ」が課題

日本損害保険協会のデータ(2015年度末)によると、地震保険の世帯あたりの加入率は全国平均で29.5%。阪神大震災当時(11.6%)と比べると約2.5倍に増加しましたが、火災保険の加入率(約48%)と比較すると、まだまだ低い水準にとどまっています。地震大国といわれ、最近も震度5クラスの地震が頻繁に起きていることを考えると、加入率が3割未満というのは、かなり低い数字と言わざるを得ません。

地震保険に対する意識は、地域によって温度差もあるようです。全国で最も加入率が高い宮城県の51.5%に対し、全国で最も加入率が低い長崎県は13.6%と、約4倍もの開きがあります。

地震保険の加入率が上がらない理由として考えられるのは、いつ起きるかわからない地震に対して、高い保険料を払い続ける負担感(ムダ)や、自分の住んでいる所は大丈夫……という危機意識の低さがあるからではないでしょうか。しかし、地震で被災すれば生活再建にまとまったお金が必要ですし、とくに住宅ローンの残債が多い場合、預貯金があってもすぐに底をつくことが考えられます。東日本大震災で大きな被害を受けた宮城県で加入率が大幅に上昇しているのも、生活再建の困難に直面した経験から、地震保険の重要性が再認識された結果といえるでしょう。

―― 以上、地震保険について詳しく見てきましたが、何よりも重要なのは、地震への危機意識を持ち、実際に被災したらどうなるのかを想定してみること。そのうえで地震保険への加入や見直しが必要なのかどうか、じっくり検討してみてはいかがでしょうか。

※参考/日本損害保険協会、朝日新聞

≪記事作成ライター:菱沼真理奈≫
約20年にわたり、企業広告・商品広告のコピーや、女性誌・ビジネス誌などのライティングを手がけています。金融・教育・行政・ビジネス関連の堅い記事から、グルメ・カルチャー・ファッション関連の柔らかい記事まで、オールマイティな対応力が自慢です! 座右の銘は「ありがとうの心を大切に」。

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