我々は普段、自分自身が物事を論理的に考えていると思いこんでしまいがちですが、実は意外と感情に流されています。そんなつもりはない、という方もいらっしゃるかもしれませんが、それは感情に流されていることに気づいていないだけです。論理だけで物事を完璧に判断できたらそれはもはや人間ではなく、完全な機械です。

感情で動くのは人間の良いところでもありますが、一方で感情を優先させたばかりに損失を被ることも珍しくありません。例えばFXなどの投機で、小さな損失を取り戻そうと熱くなりハイリスクなトレードをして、損失を大きくしたという事例は掃いて捨てるほどあります。

人間は自身の感情を完全にコントロールすることはできませんし、それに寄る失敗も完全には防げません。しかし、人間がどのような感情を持つのか、感情を抱いた時にどのような判断を下すのかを平常時に知っておけば、いざという時に論理的に破綻した行動を取る可能性を小さくすることができます。今回は人間が陥りがちな認知(バイアス)を幾つか紹介したいと思います。

確率のバイアス

人間は確率というものを完全に客観的に評価することができません。小さな確率は大きく、大きな確率は小さく評価する傾向があるのです。

例えば「宝くじの当選」や「大地震による被災」など、実際には殆ど起こらないことは「思ったよりも多い確率で起こる」と感じます。だから人々は宝くじを買いますし、大地震に備えます。逆に実際に高い確率で起こることは「思ったよりも少ない確率でしか起こらない」と感じます。

話は変わりますが、われわれが何かを得た時に得られるものを利得と言います。わかりやすいところでいえば金銭的な利益も利得ですが、広義の意味では「他人に評価される」なども利得に含まれるでしょう。

他人に評価されるというのは数字には表しにくいものなのでここでは置いておいて、とりあえず金銭的な利益について考えます。

利得の中には確実に手に入る物もあれば、一定の確率でしか手に入らない物もあります。例えば、宝くじで得られる利得は不確実な利得です。利得の量(手に入るお金の量)と、それを手に入れられる確率の両方がわかっている場合、両者を掛ければ期待利得を図ることができます。

期待利得とは1回の施行で期待できる平均的な利得のことです。例えば、30%の確率で1万円当たるくじがある場合、期待利得は1万円×30%=3000円が期待利得となります。

実際には1万円当たるか0円当たるかの2択ですが、引く回数を増やしていくと引いた回数×3000円に近い金額が手元に残ります。

論理的に考えれば、期待利得が高い選択を選ぶのが常に正しいはずです。しかし、実際に期待利得が高い選択だけを完璧に選べる人はいません。皆どこかで判断ミスを犯しているのです。

例えば宝くじ。宝くじを1枚も買わなかった場合、期待利得は当然0円です。一方、宝くじ1枚あたりの期待利得は約130円ですが、宝くじ自体が1枚で300円するので、実質的な期待利得は-170円ということになります。つまり、「宝くじを買わない」という選択のほうが「宝くじを買う」という選択よりも期待利得が高いということになります。宝くじを買い続けると、概ね買った枚数×170円分の損失が出るのです。

皆が論理的に判断すれば、誰も宝くじを買わないはずです。しかし、現実には多くの人が宝くじを買っています。宝くじが当たるかもしれないという微小な確率を高く評価しすぎているのです。

もちろん、夢を追って宝くじを買うのは悪いことではありません。そもそも本人が得たお金をどのように使うかは本人の勝手ですしね。ただ、論理的に考えれば宝くじは明らかに損であること、人間は客観的な確率とは別に主観的な確率を抱くことは覚えておいて損はないかと思います。

損失に対する過大評価

利得とは逆に、何かを失うことを損失と言います。人間は基本的に、同じ大きさの利得と損失ならば損失の方を大きく評価するものです。

例えばある投資で1ヶ月目に4万円稼ぎ、2ヶ月目に4万円失ったとしましょう。この場合の利益は0、つまり利得も損失も出ていないことになります。しかし、このような結果が出た場合、多くの人は「損をした」と感じるようです。論理的にはプラスマイナス0でも、感情的にはマイナスなのです。

損失を利得の何倍ぐらい大きく評価するかというのは研究者によって意見が別れるところですが、概ね1.5倍から4倍という意見が多いようです。ずいぶん幅が大きいように思われるかもしれませんが、それだけ不確実ん世界なのです。

仮に損失を利得の2倍大きく評価すると仮定した場合、4万円の利得が釣り合うのは2万円ということになります。

利得や損失の増加に伴うバイアス

人間は利得には喜びを感じ、損失には悲しみを感じます。しかし、喜びや悲しみの大きさが金額にきれいに比例するかというとそうとは言えません。100万円得たことによる喜びは、1万円得たことに寄る喜びの100倍というわけではないのです。

一般的に喜びや悲しみの増加率は、利得や損失の絶対値が大きくなるほど小さくなります。例えば、1000円で買った株が1100円になったときには大きな喜びを感じますが、その後も株価が上昇し続けて2000円が2100円になっても、当初ほどの喜びは感じません。

逆に株価が1000円から900円になったときには大きな悲しみを感じますが、その後も株価が下落し続けて400円が300円になっても当初ほどの悲しみは感じません。喜びや悲しみを繰り返し感じているうちに次第に感覚が麻痺していってしまうのですね。

この感情がトレードに影響を与えることもあります。仮に今、小さな含み益が出ているとします。この時点で利得を確定すれば、喜びを得ることができます。

一方、利得を確定しなかった場合、利得は大きくなるかもしれませんし、利得が消失するかもしれません。利得が大きくなったとしても得られる喜びの量は大して増えず、利得が消失すれば大きな悲しみを感じることになります。したがって、感情面からすれば、ここで利得を確定させたほうが良いということになります。

小さな含み益が出ている場合はどうでしょうか。この時点で損失を小さいまま確定すれば、悲しみを感じることになります。

一方、損失を確定しなかった場合、損失は大きくなるかもしれませんし、損失が消失するかもしれません。損失が大きくなったとしても感じる悲しみの量は対して増えず、損失が消失すれば大きな喜びを感じることになります。したがって、感情面からすれば、ここで損失を確定させないほうがいいということになります。

このように感情に任せたトレードをしていると、利得は小さいところで確定させ、損失は小さいところで確定させない事になります。これはトレードのやり方としては最悪です。トレードの原則は利得を大きく、損失は小さくです。

感情に流されずにトレードに取り組むためには、事前のルール作りが重要になります。事前に含み益が●%を超えたら売る、あるいは含み損が△%になったら売るというルールを予め作成しており、後はただそのルールに従って取引していくのです。これならば利得は小さく、損失は大きくなることはなくなります。

事前の期待によるバイアス

人は利益を得ると喜びを得て、損失を被ると悲しみを感じますが、同じ額の利益(損失)を手に入れたからと言って、感じる喜びの大きさがいつも同じになるとは限りません。事前に期待していた金額よりも利益が多ければ喜びは大きく、少なければ喜びは小さくなります。

例えば、給料が1万円上がった場合について考えます。事前に給料が上がらないと考えていた場合は、期待よりも大きく給料が上がったということになるため、大きな喜びを感じます。しかし、事前に給料が2万円上がると考えていた場合は、期待していたほど給料が大きく上がらなかったため、喜びは小さなものになります。

投資で成功するためには、事前に過剰な期待をしすぎないことも大切です。いつも大きな利益を期待してしまうと、小さな利益では満足できなくなり、より大きな満足を得るために過剰にリスクを取ってしまいがちです。期待し過ぎにはくれぐれも気をつけてください。

自己決定権優先バイアス

自分で選んだ宝くじと、他人に選んで貰った宝くじではどちらが当たる確率が高いでしょうか。言うまでもなく答えはどちらも同じですが、人間は誰かから与えられたものよりも自分で選んだほうが確率が高いという認知を抱きがちです。自分で決めたことはうまくいくような気がする、というわけですね。

パチンコ依存症患者がたくさん居るのに対して、宝くじ依存症患者があまり多くないのも、パチンコのほうがより自分で決定しているという感覚に陥りやすいからとされています(実際には当たりを出すかどうかは機械が決めているのですが)。自分で決めたことを信じることは大切ですが、だから絶対うまくいくというような角に楽観的な考えを抱いてしまわないようにする必要があります。

現状維持バイアス

人間という生き物は根本的に保守的であり、できるだけ今を変えたくない、いまのままでいたいと無意識のうちに考えます。健康診断に言った方がいいと頭ではわかっていても理由をつけてなかなか行かなかったり、転職した方がいいとわかっていてもなかなかしなかったり……こうした経験がある方は少なくないでしょう。

投資の世界においても現状維持バイアスは度々働きます。何も銘柄を保有していない状態では新たに銘柄を保有するのをためらい、保有している状態ではそれを手放すのをためらいます。現状維持バイアスから抜け出すためには、まずは簡単なことから始めるのが良いとされています。

確証バイアス

投資の世界ではある銘柄が上がる、もしくは下がるという仮設を立てて、その仮設にもとづいて銘柄を買います。しかし、人間は仮設を立てた際に、その仮設を肯定・強化する情報ばかりを重んじ、否定する情報は軽視、もしくは黙殺する傾向があります。簡単に言えば自分の考えに反する意見は聞きたくない、ということです。

例えば色々と考えてある銘柄は上がると判断したのにもかかわらず、他の投資家から「そんなことはない、その銘柄は下がる」と否定されたら、いい気持ちはしないでしょう。「上がる銘柄を下がると予想するなんて、あいつは馬鹿だ」と思うかもしれません。相手も「下がる銘柄を上がると予想するなんて、あいつは馬鹿だ」と考えているかもしれません。人間は根本的なところで意見が違う人間とは対立するものなのです。

確証バイアスから抜け出すためには、信頼できる情報源が必要になります。複数の自分より実力のある投資家の意見を聞き、情報を仕入れることによってバイアスから抜け出せる可能性は高まります。但し最終的に判断するのはあくまでも自分ですので、失敗したからと言って他人のせいにしないようにしましょう。

ポジティブ・ネガティブフレーミング

例えばある人に対して最初にいい印象を持つとその人のいいところばかりが見えるようになりますし、逆に最初に悪い印象を持つとその後も悪いところばかりが見えるようになります。これをポジティブ・ネガティブフレーミングと言います。好きな人は欠点まで愛おしく思え、嫌いな人は長所まで嫌味に思えるなんてのはよくある話ですね。

好き嫌いの感情と正しい正しくないの判断を切り離すのは簡単なことではありませんが、投資の世界においては良い面と悪い面の両方を見ることが必須です。

自己奉仕バイアス

人間は自分の努力というものを、他人の努力よりも過剰に評価する傾向があります。「自分はこんなにも頑張っているのに、他人は楽をしていてずるい!」というわけですね。例えば、「夫婦の家事分担に対する自分の貢献度はいくらか?」という質問を夫婦にした所、その合計は120%前後になるなることが多いようです。

投資の世界でも「自分はこんなに頑張っているのに、どうして結果が出ないんだ」と頭を抱えることが度々あるかと思います。しかし、投資の世界と言うのは結果がすべての世界です。どんだけ頑張ろうと結果が出ていなければそれは全く意味がないですし、逆に対して頑張っていなくても結果が出たのならばそれは正義です。

間違った記憶バイアス

人間の記憶というのは得てしていい加減なもので、都合よく書き換えられていきます。インパクトのある記憶や馴染みのある記憶は鮮明に覚えていますが、そうでない記憶はどんどん書き換えられていきます。記憶力に自信がある人でも脳内の情報だけでは判断せず、その都度必要な情報を仕入れることが大切です。

絶対値バイアス

絶対値で表示されている数字だけで物事を判断すると誤ることが多々あります。ある投資による利益が10万円だったと聞いたら、ずいぶん儲かっているんだなと思われるかもしれません。しかし、投資した金額が1億円で、利回りが0.1%だったので利益が10万円だったと知ったらずいぶんしょっぱいと思われるでしょう。投資の成果を判断する際には、いくら儲かったかという絶対値ではなく、投資元本に対していくら儲かったかという利回りを基準に考えることが大切です。

時間割引

人は将来得られる利益は、現在得られる利益よりも割り引いて考える傾向があります。殆どの人は1年後に得られる1万円よりもいま得られる1万円を優先します。将来の価値を低く見ることを時間割引といい、その割合を時間割引率といいます。

例えば、将来の1万円が現在の9000円に相当すると考えている人の時間割引率は10%、将来の1万円が現在の8000円に相当すると考えている人の時間割引率は20%です。時間割引率が高い人ほど将来の価値を低く見積もる、つまり現在の目先の利益に飛びつきやすいということです。

また、時間割引率は常に一定というわけではなく、時間によって変化します。一般的に時間割引率は時間が短いほど高くなります。遠い将来の利益のためなら待てるが、近い将来の利益は待てない、ということです。「今日と明日の違いは明日と明後日の違いより大きい」と説明されることが多いです。

時間割引の罠から抜け出すためには、意思表明が有効と言われています。周囲の人に向かって目先の小さな利益を我慢して将来の大きな利益を手に入れる、と宣言すればいいのです。例えば食事(目先の小さな利益)を制限してスリムなボディ(将来の大きな利益)を手に入れるというのは単純ですが効果的な方法です。

ただし、あまりに目先の利益を我慢するのは帰ってストレスとなり、体に悪いだけでなく欲望が暴発してしまうので注意が必要です。適度なガス抜きも忘れないようにしましょう。

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金融・ 経済関連の記事をメインとしたフリーライターをしています。様々なジャンルの本を読み漁っていますので、 自分の記事が投資家の皆さんの利益となるように情報発信に努めていきます。