戦後、日本の経済成長とともに下がり続けてきた「エンゲル係数」が、ここ数年で上昇に転じ、2016年には29年ぶりの高水準(25.8%)となりました。

このエンゲル係数上昇の要因について、前回は「食品価格の高騰」という側面にフォーカスしましたが、今回の《Part.2》では、現代のさまざまな社会的背景から、さらに掘り下げて見ていきたいと思います。

高齢化による世帯構成の変化も要因に

エンゲル係数の上昇には、食品価格の高騰という一時的な要因だけでなく、さまざまな社会的構造の変化も深く関係しているとみられています。
まず挙げられるのが、急速に進む超高齢社会の影響です。2016年、日本の総人口に占める65歳以上の高齢者の割合が過去最高の26.7%となり、「4人に1人が高齢者」「全世帯の1/4が高齢者(世帯主)世帯」という時代を迎えました。
ここで、世帯主の世代別エンゲル係数の推移(図参照)を見てみると、近年、日本のエンゲル係数に占める60歳代以上のウェイトが、他の世代と比べて急激に上昇していることがわかります。つまり、最近のエンゲル係数の上昇には、高齢化(高齢者世帯の割合が高まった)が大きく影響しているということです。

高齢者世帯ほどエンゲル係数が高いのは、世帯主が定年や高齢で無職となり、主な収入源が年金や貯蓄の取り崩しに限られるなか、生きるために必要な食費は消費支出全体の減少よりも減らないからです。また、子どもが独立して教育費の支出がなくなることも大きな要因となっています。
一方で、50歳代世帯のエンゲル係数が低いのは、家計に余裕があるというよりも、子どもが高校や大学に進学する時期にあたり、教育費の支出が増えるためと考えられます。

共働き世帯の増加でお惣菜ニーズがアップ

働く女性(共働き世帯)の増加も、食品への支出増につながっているようです。
女性の就業率(15歳以上)は4年連続で大きく上昇し、2016年は48.9%と前年比で0.9ポイント上昇。生産年齢(15~64歳)人口ベースでみると、就業率は過去最高水準の66%に達し、女性正社員の雇用者数は36万人増の1078万人と、ここ10年で最も多くなりました。

共働き世帯は家事時間を節約するために、やや割高でも調理食品や外食の利用機会が増え、一般的に食費が多くなる傾向があります。総務省の家計調査によると、2016年の食費支出は2人以上の勤労者世帯で0.6%増加。とくに、時短に役立つ調理食品への支出は、10年前(2006年)と比較すると15%以上の伸びを見せています。
手軽に食べられる弁当や総菜などの調理食品は、高齢者世帯での利用も増えており、こうした中食への需要増加もエンゲル係数上昇の一因と考えられています。

せめて「食」くらいはプチ贅沢したい

さらに、日本人の食生活や消費スタイルの変化も、エンゲル係数を押し上げているとの指摘もあります。高価なモノを買う余裕はなくても、せめて「食くらいはプチ贅沢」という人が増えているというのです。調理食品などの中食や外食への支出が増える一方で、家財用品への支出は1.8%減、衣料・雑貨用品は3.4%減と振るわないことからも、食に対する消費者の意識が高まっているのがわかります。

たとえば、食べ歩きで美味しいお店を開拓したり、料理を写真に撮ってSNSに投稿したり、ちょっと高価なデパ地下グルメや健康食品を購入したり……。その分、日用品は百均、洋服はファストファッション、クルマはナシ……。そんなライフスタイルにシフトする人が、筆者の周囲でも増えているような気がします。つまり「花より団子」ということでしょうか(笑)。
高度経済成長やバブルの時代を経て、さまざまな価値観を築いてきた日本人が、いまあらためて人間としての根本的な消費活動である「食」に価値を見出しているのは、非常に興味深いことだと思います。

もはや「上昇=貧困」と直結する時代ではない?

このように近年のエンゲル係数の上昇には、人口構造の変化や女性の就業率アップ、食生活や消費スタイルの多様化など、現代のさまざまな社会的背景が影響し合っており、上昇の要因をひとつの理由だけで説明するのは難しいようです。こうしたことから、かつてのように「エンゲル係数上昇=貧困」と、直結する時代ではなくなっているとの見方も広まっています。

とはいっても、食をレジャー化してエンジョイする人がいる一方で、生活が苦しく食べていくだけで精いっぱいという人がいるのも事実です。そうした中で、エンゲル係数は国民の暮らしぶりを測る指標のひとつとして、重要な意味を持つことに変わりはありません。その中身や社会的背景を多角的に分析して、日本経済全体のへの影響を考えていく必要がありそうです。

※参考/総務省統計局、NHK NWES WEB、日本経済新聞

≪記事作成ライター:菱沼真理奈≫
約20年にわたり、企業広告・商品広告のコピーや、女性誌・ビジネス誌などのライティングを手がけています。金融・教育・行政・ビジネス関連の堅い記事から、グルメ・カルチャー・ファッション関連の柔らかい記事まで、オールマイティな対応力が自慢です! 座右の銘は「ありがとうの心を大切に」。

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