家計消費のうち食費が占める割合を示す「エンゲル係数」。総務省の家計調査によると、2016年のエンゲル係数は25.8%と前年より0.8ポイント上昇し、29年ぶりの高い水準となりました。

かつて学校で「低下することが豊かさを示す尺度」と教わった係数ですが、いまの時代になぜ上昇しているのでしょうか?エンゲル係数と社会背景をテーマに、2回にわたって詳しく見ていきたいと思います。

そもそもエンゲル係数とは?

消費支出に占める食費の割合を示すエンゲル係数は、1857年にドイツの社会統計学者エルンスト・エンゲルが、「家計の所得が増えると生活費(消費支出)に占める食費(飲食料)の割合が低下する」と論文で発表したのをきっかけに、生活水準を表わす経済指標として世界的に広まりました。
年間収入別にエンゲル係数を調べた総務省の全国消費実態調査(2014年)でも、所得の増加とともにエンゲル係数が低下する傾向がはっきりと見て取れます。

年収別エンゲル係数

人間が生きていく上で欠かせない食費は、他の支出に比べて節約しにくいため、エンゲル係数は収入が少ない世帯で高くなる傾向があります。一方で収入の多い世帯は、耐久消費財への支出や趣味・レジャーにお金を回す余裕があるため、一般的にエンゲル係数は低くなるというわけです。
こうしたことから、エンゲル係数が高い(=飲食費が占める割合が高い)ほど、生活水準が低い(=食費以外に生活費を回す余裕がない)と考えられるようになりました。

生活水準は29年前に逆戻り!?

では、日本におけるエンゲル係数の推移(2人以上の世帯)を見てみることにしましょう。
終戦直後は60%を超えていたエンゲル係数ですが、その後、日本の経済成長とともに下がり続け、2005年を境に上昇傾向に転じてからは23%台で推移。ところが、2014年には24% ⇒ 2015年には25%と急激にアップし、2016年は1987年以来の高水準となる25.8%まで上昇しました。
このデータを見るかぎりでは……
【日本の生活水準は29年前に逆戻りした】
【家計の余裕度は年々低下している、貧困化している】
……ということになりますが、果たしてどうなのでしょうか?

エンゲル係数の推移

食品価格の高騰が家計を圧迫

まず、今回のエンゲル係数の上昇要因として挙げられるのは、食品価格の高騰です。
総務省の消費者物価指数によると、2016年度の食品全体の価格は平均で1.7%上昇。とくに生鮮野菜は価格の上昇が著しく、ニンジンは前年比で21.4%。ハクサイは14.4%上がるなど、平均で5%上昇しました。また、ビスケットやチョコレートは10%前後、総菜や冷凍食品などの調理食品も1.4%上昇しています。
これは、夏場の台風・天候不順で農作物が被害を受けたことや、円安の影響で海外から輸入する原料の価格が上昇したことなどが大きな原因です。

では、平均的な消費支出や収入の数字に大きな変化はあるのでしょうか。
2人以上の勤労世帯を対象にした総務省の家計調査によると、2016年の1ヵ月あたりの消費支出は28万2188円と、10年前より1万2755円減少しています。これとは逆に、食料費は10年前より7%ほど増えていますので、 食品価格の上昇がエンゲル係数を押し上げる要因になったといえそうです。
一方で、世帯の平均収入は2016年が52万6973円、10年前が52万5719円とほとんど変化はありません。こうした点から分析すると、今回のエンゲル係数の上昇は、10年前より暮らし向きが厳しくなっている状況を反映しているといえるでしょう。

しかし、エンゲル係数に関する解釈は、以前とは変化しつつある面もあるようです。経済界やエコノミストの間では、近年のエンゲル係数の上昇には他にも大きな要因があり、上昇が貧困に直結するとばかりはいえないとの見方も広まっています。
では、現代のエンゲル係数上昇の背景には何があるのか、上昇は何を意味しているのか……? 次回の《Part.2》で詳しく見ていくことにしましょう。

※参考/総務省統計局、NHK NEWS WEB、朝日新聞

≪記事作成ライター:菱沼真理奈≫
約20年にわたり、企業広告・商品広告のコピーや、女性誌・ビジネス誌などのライティングを手がけています。金融・教育・行政・ビジネス関連の堅い記事から、グルメ・カルチャー・ファッション関連の柔らかい記事まで、オールマイティな対応力が自慢です! 座右の銘は「ありがとうの心を大切に」。

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