株式や債券など企業への投資を検討する場合、何を基準にしていますか? 例えば、株式では「PER(株価収益率)」や「PBR(株価純資産倍率)」、「ROE(自己資本利益率)」などが上げられると思います。
また、投資先企業には「自社が健全な経営状態にある」ことを示すために開示している情報が幾つかあります。一定の会計基準に従った決算書を作成することで、自社の経営の状況が客観的な数値で表わされます。今回はその中でも、金融商品で用いられている会計基準をご紹介します。
会計基準とは?
会計基準とは、企業の経営実績や財務状況を報告する「財務諸表」を作成する上でのルールです。
財務諸表は、企業が株主や債権者、財務当局などの利害関係者(ステークホルダー)に対して、一定期間における経営成績や一定時点における財政状態などを報告するために作成する計算書類のことです。
財務諸表には「貸借対照表(B/S)」や「損益計算書(P/L)」、「キャッシュフロー計算書(C/S)」、「利益金処分計算書・付属明細表」などがあります。
2つの会計基準、金融商品の会計基準が該当するのは?
会計基準には大きく分けて2つの種類があります。
1つは「管理会計」です。
経営者や役員、各部門責任者など企業の内部に向けて作成され、基本的には機密情報です。原価計算と予算管理をベースに、業績測定や業績評価のために作成されます。
もう1つが「財務会計」です。
他の企業や官公庁など、外部に向けて企業の会計情報を提供する目的で作成します。一般的に損益計算書やキャッシュフロー計算書、貸借対照表、株主資本等計算書で構成される財務諸表が中心に作成されます。
金融商品の会計基準とは、文字通り「金融商品に関する会計基準のこと」で、財務会計に含まれます。
金融商品については、後ほど説明します。
金融商品の会計基準の基礎となる「時価会計」
日本では長年にわたり、資産の評価は取得原価を基礎とする「取得原価主義」を取っていました。
取得原価主義とは、資産評価のベースをその資産を取得するために要した実際の支出額(原価)とする考え方です。企業会計は原則、資産の評価については取得原価主義を採用しています。
その後、取得原価主義とは異なる考え方である「時価主義」が提唱されるようになりました。時価主義とは、評価する時点での市場価格(時価)に基づいて資産を評価するという考え方です。
時価で資産価値を評価する会計制度を「時価会計」といいます。株式や債券などの有価証券や金融派生商品(デリバティブ)といった金融商品を時価で評価して損益処理することを指します。
証券・金融市場のグローバル化、金融商品の取引の高度化・複雑化に対応したものです。
金融商品の時価評価に関する会計処理、新たに開発された金融商品や取引手法などについての会計処理を整備する目的で基準化されています。
一般に金融商品会計とは、時価会計の会計基準に基づく会計処理を指します。原則としてすべての会社が強制適用されています。
金融商品の会計基準の基礎となる「時価会計」の歴史
まず米国が「ディスクロージャー制度(企業内容等開示制度)」の一環として、時価会計を採用しました。
ディスクロージャー制度とは、企業が一般投資家や株主などに対して経営内容などの情報を開示することです。
その後、日本でも「金融ビッグバン」と呼ばれる金融市場の改革の一環として時価会計が採用されました。
銀行や証券会社などの金融機関は、1997年度から有価証券取引について時価会計処理が可能になりました。
2000年度には「金融商品に係る会計基準」(企業会計基準第10号)が設定されたことを受けて、金融機関以外も時価会計を導入。2001年度には日本公認会計士協会より発表された「金融商品会計に関する実務指針」に基づき、「その他有価証券」も貸借対照表上の時価評価が義務付けられています。
金融商品の会計基準における2つの「金融商品」
企業会計で定義される金融商品とは「金融資産と金融負債を総称したもの」です。明確な時価があって変動し、その時価で売却が可能であるものが該当します。
金融商品の会計基準における「金融資産」と「金融負債」
金融資産には、現金通貨や預貯金、有価証券の他にも保険証書や信託受益証券などが含まれます。一般に資産のうちで土地や建物、機械・設備などは「実物資産」と呼ばれます。金融資産とは実物資産に対比されるものです。
一方、金融負債とは、上記の金融資産の債務が含まれます。
金融商品の会計基準における「有価証券」の4つの定義
金融商品における有価証券は、保有目的に応じて4つに分類され、異なる会計処理が行われます。
(1)売買目的有価証券
時価の変動を受けて売買することで、利益を得る目的で保有する有価証券です。毎期末に時価評価され、その評価差額は損益計算書に計上されます。
期末時点での時価は、投資者にとっての有用な情報です。また、企業にとっての投資活動の成果だといえます。
資産を売買することによって生じる利益を「キャピタル・ゲイン」と呼びます。株式投資や投資信託、不動産の売却益、外国為替取引による利益などが含まれます。
(2)満期保有目的の有価証券
満期まで保有することで利益を得ることを目的としている債券を指します。売買を目的とするものではないため、時価ではなく原価で評価されます。
満期までの間の金利変動による価格変動のリスクはないと考えられています。そのため、金融商品に関する会計基準では原則として「償却原価法」に基づいた価額を貸借対照表価額としています。
資産を保有することで生じる利益のことを「インカム・ゲイン」と呼びます。株式投資の配当金や投資信託の分配金、不動産投資の家賃収入、外国為替のスワップポイントなどが含まれます。
(3)子会社株式および関連会社株式
他の会社への権利を行使することで、企業グループとして事業を展開することで利益を獲得する目的で保有する株式を指します。取得原価をもって貸借対照表価額とします
しかし、時価が著しく下落したときは、回復する見込があると認められる場合を除き、時価をもって貸借対照表価額とし、評価差額は当期の損失として処理する必要があります。
(4)その他有価証券
以上の3つのどれにも該当しない有価証券です。時価を貸借対照表価額とします。
時価が取得原価を上回る銘柄に係る評価差額は純資産の部に計上して、時価が取得原価を下回る銘柄に係る評価差額は当期の損失として処理します。
金融商品の会計基準における「デリバティブ」とは?
デリバティブとは、株式や債券などの金融商品(原資産)から派生して生まれた金融商品のことです。デリバティブには「先物取引」「オプション取引」「スワップ取引」などの種類があります。
デリバティブは、金融商品のリスクを下げたり、逆にリスクを増やしたりすることでより高い収益を上げるために考えられました。リスクというと、一般的に損失を被ることを指すイメージが強いですが、投資におけるリスクは損失だけでなく、利益の発生も含みます。
デリバティブ取引のメリット/デメリット
デリバティブ取引の最も大きなメリットは「リスクヘッジ」です。リスケヘッジとは、起こりうるリスクの程度を予測し、そのリスクに対応できる体制を取って備えておくことです。
リスクヘッジには、例えば「原資産である株式を買い、デリバティブである先物(後ほど解説します)の売りを組み合わせる方法」などがあります。この方法では、異なる値動きをする金融商品を組み合わせてリスクを低減しています。
また、金融商品の取引の種類が増えることで、取引市場が活発になります。その結果、市場の急激な変化を避けたり、市場の変動を先導したりするなどの役割を担っています。
一方で、デリバティブ取引にもデメリットがあります。
デリバティブ取引は高度な数学理論を用いた金融工学から考えられた金融商品です。金融工学がコンピューターなどを利用して発展するとともに、取引がより複雑化・高度化しています。
その結果、一般投資家には理解が難しいものになっています。
デリバティブ金融商品の1つである「先物取引」
先物取引は「将来の一定時点において、特定の商品を一定の価格で一定の数量だけ売買することを約束する」取引です。例えば、4月の時点で7月に受け渡しする商品の価格をあらかじめ決めてしまうという取引のことです。
特に取引所で行われる売買の予約をする取引のことを指します。「日経平均先物」「TOPIX先物」「日本国債先物」などの商品があります。
先物取引では、あらかじめ売買の価格を設定できるため、価格変動する商品の「価格変動リスク」を回避できるという特徴があります。リスク回避には「買いヘッジ」「売りヘッジ」の2種類の方法があります。
買いヘッジとは、将来、価値(値段)が上がると予想し、値上がりする前の価格で購入する約束によって、値上がりによる損失を防ぐ方法です。対して、売りリスクは、値下がりすると予想し、値下がり前の価格で売却する約束によって、値下がりによる損失を防ぐ方法です。
デリバティブ金融商品の1つである「オプション取引」
オプション取引とは「将来の一定時点に、一定の価格で特定の商品を売買する権利を売買する」取引です。買う権利を「コール・オプション」、売る権利を「プット・オプション」といいます。
それぞれの権利に対して付けられる価格のことを「オプション料」または「プレミアム」といいます。
オプションの代表的な金融商品としては「日経平均オプション」「TOPIXオプション」「個別株オプション」などがあります。
コール・オプションもプット・オプションも、買い手は「権利行使」「権利放棄」するかを自由に選択できます。オプション取引の買い手は、最初に支払ったプレミアム以上の損失は生じません。
しかし、最初にオプション料を払っているため、同様の先物取引と比較した場合、その損益分岐点がオプションの分だけ不利になります。
逆に、売り手は買い手の意思に従う義務を負うことになります。ただ、売り手はオプション料を買い手から受け取ることが可能です。
デリバティブ金融商品の1つである「スワップ取引」
スワップ取引とは「金利や通貨から生じるキャッシュフロー(お金の流れ)を交換する」取引のことです。スワップ(swap)は、日本語で「交換」を意味します。スワップには、「金利スワップ」や「通貨スワップ」などの種類があります。
金利スワップとは「同じ通貨の異なる種類の金利(変動金利・固定金利)を交換する」取引を指します。一方、通貨スワップとは「異なる通貨の異なる種類の金利(変動金利・固定金利)を交換する」取引です。
スワップ取引は、将来、収益が変動する可能性がある「リスク取引」、取引時点では資産価値がないため、バランスシートに計上されない「オフバランス取引」、やり取りする金利は少額でも、想定元本相当の取引ができる「レバレッジ」という3つの特徴があります。
金融商品の会計基準とは何か? まとめ
一口に金融商品といっても様々な種類があることが分かりました。今後も企業には健全な事業展開とより透明性のある情報開示が求められます。その開示情報の基礎となっているのが「金融商品の会計基準」です。
企業への投資を検討する場合の判断材料として注目してみてはいかがでしょうか。
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