最近、多くのメディアが金の投資について取り上げるようになった。
8月末、ついに金の価格が1グラムあたり5000円を突破。とにかく価格が上がっている。
2000年前後あたりまでは1グラム1000円を切ることもあったのに、それがいまや当時の約5倍に達し、隔世の感ありだ。しかしなぜ最近、金が上がってきたのか……、さらに金はどうやって買うのか……、また今後はどんな動きになるのか……。そうした点に着目し、これまでの体験も交えて話をしよう。
金の積み立て購入歴28年。その判断は正しかったのか?
筆者が金の積み立て購入を始めたのは、1991年の夏のことだ。当時はバブル最後の“あだ花”の時期。知人や友人などの多くが株や不動産、ゴルフ会員権などを購入し、日ごとに値上がりするのを間近に見ていた。しかし、運用するようなまとまったお金のない、しがないサラリーマンだった筆者はその様子を、指をくわえて見ているほかなく、せめて投資の一端を垣間見ようと金の積立投資を始めたのだ。
積立投資の長所は、まとまった資金がなくても毎月少しずつ積み立てることで、少しずつながら資産としての金が増えていくところだ。とりあえず毎月1万円、ボーナス月には追加で1万5000円分を積み立てた。仮に月ごとの積立日に金の価格が下がっていれば、購入グラム数は増える。半面、価格が上がっていれば購入グラム数は減ることになる。
投資を始めた当時の金の価格は1グラム1200円~1500円前後。つまりは毎月6~7グラムほどの砂金のような量を買い続けたことになる。しかし、結果的にこの地道な金の積立投資は長い時間を経て、そこそこの資産を増やす結果となった。
2000年当時と比較して、約5倍に達した金価格
心配されたバブル経済崩壊の影響だが、1992~95年当時、株価や不動産価格などは、まさに真っ逆さまともいえる状態で価格が下落したものだが、図「金価格の推移(三菱マテリアル価格)」を見てわかる通り、金の価格は低いままだが極端な乱高下は起きなかった。バブルの恩恵を受けなかったかわりに、暴落も起きなかったことになる。結果、毎月の積立の価値は大きく損なわれなかった。
そして、その後しばらくがまんしていたところ、2000年ごろには1500円だった金価格が、2000円、3000円とにわかに上がり始めていったのである。さらにはここ15年については、ほぼ一貫して金価格は上がり続け、いまや2000年当時の約5倍の金価格にまで達している。
1991年夏から、おおよそ300カ月以上積み立てを続けてきて、総額は380万円以上にのぼるが、確実に400万円以上の資産となったはずである。なぜ正確な数字ではないかといえば、残念ながら途中途中で何度も一部を換金してしまったため、手元に残っている金は総額とはほど遠いからだ。つまりは、途中で使わずに持ち続けていたら……と“とらぬ狸の皮算用”なのである。
しかし、なぜ金価格は上がり続けたのか?
2000年以降、なぜ金は上がり続けてきたのだろうか。それは金独特の資産特性と大きくかかわっている。
金は株や通貨などの「信用ペーパー資産」ではなく、金という希少鉱物の「実物資産」である。ペーパー資産が、常に取引相手との信用で成り立っているのに対して、金は存在そのものが資産となっており、しかも地球にはわずか数十万トンしか埋蔵されていないとされる。その違いが、この不安定な世の中で高騰を果たす原因となっている。具体的には……、
① 米国同時多発テロで「有事の金」が見直される
2001年9月の米国同時多発テロは、それまでの米国経済の威信を決定的に落としめる結果となった。直後から株価は下落し、それまで信用の高かったドルも下落した。投資家は米国の有価証券から手を引き、現物資産の金の買い入れに走った。
② 金EFTによって機関投資家が金を爆買い
金の購入に拍車をかけたのが、金EFTの登場。これは金の価格に連動して運用する投資信託で、証券取引所で購入できる。EFTをきっかけに年金基金や生命保険などの機関投資家が、金に投資ししやすくなり、こぞって参入。多くの投資家たちのポートフォリオの一角を占めるようになった。
③ 原油高騰によるインフレ懸念
2000年代前半は、中国やインドなどの新興国で石油の需要が急速に高まり、原油価格は高騰。物価が上昇して世界的インフレが起こることが懸念され、通貨が下落。安全資産として金が買われた。
④ リーマンショックによる金融危機
2007年から8年にかけて、米国で住宅バブルが崩壊し、サブプライムローンの大量焦げ付きが発生。これをきっかけに米国大手金融のリーマン・ブラザースが経営破綻。世界中の株価が暴落した。これは世界中を巻き込んだ金融危機を発生させ、ドルへの信用は失墜。行き場を失った世界の投資マネーは金に流れた。
⑤ ヨーロッパ経済の失速
2010年以降は、ヨーロッパの金融不安が勃発。ギリシャの財政破綻をきっかけに、ポルトガル、アイルランド、イタリアなどの財政が軒並み危機に瀕していることがわかり、それらの国の国債は暴落、無国籍通貨である金の高騰につながった。
⑥ トランプ政権と北朝鮮問題
2017年には米国で共和党のトランプ政権が誕生。それまでのオバマ政権の政策をことごとく精算し、極端な保護主義をとることが懸念された。また同じタイミングで北朝鮮が核開発やミサイルの発射を立て続けに強行。米国と北朝鮮の対立は深刻となり、有事に備えての金への投資がまた増えている。
以上のような理由で金の価格は高騰している。この流れがすぐに収まる気配はなく、当分上がり続けるとみるのが一般的だ。一説によると1グラム8000円から9000円に上昇する、という説もある。金の投資は、今のところ有望とみていいだろう。
積み立てに特化した少額投資非課税制度や、1000円から始められるうえに、わずか3タップで株が購入できてしまう株アプリなど、新種の投資商品が続々誕生し、専門家の「オススメ投資信託」が乱立する時代になった感があるが、そうした金融商品合戦を横目に、ずっと値上がりが続く金価格……。
前回は金の積立経験を交えながら、価格高騰の現状とその理由についてレポートしたが、引き続き今記事では、金はどのようにして購入するのか、自分に合った購入の仕方と、さらには金投資のメリットとデメリットについて考えてみたい。
バリエーション豊富な金の購入方法
金の購入法には、実はけっこうバリエーションがある。
どの方法を選ぶかは、ひとつは手元の運用資金の額によって、またどれだけリスクをとり、ハイリターンを得ようとするかなどで、購入のスタイルは変わる。下記にその種類をいくつか紹介しよう。
金の購入方法① 毎月の積み立てによる購入
これは前回の記事で解説したように、筆者が経験した純金積み立てによる投資方法だ。毎月一定の金額を口座引き落としなどで購入していく、積立預金と同じ方式だ。投資額の最低ラインは、会社にもよるがだいたい1000円〜が多い。毎月の購入額が一定なので、引き落とし日の金の価格によって、購入のグラム数が変わる。例えば金価格が先月より上がっていれば購入グラム数は減り、価格が下がっていれば購入グラム数は多くなる。
また、ほとんどの会社ではスポット購入ができる。毎月の購入とは別に、金価格が下がったタイミングで少しまとまった額を購入することもできる。金購入の中では、もっともリスクが少なく、その代わりリターンも少ない。ゆっくり長く投資を続けるのに向いている。
〈金の購入方法②〉金EFTでの購入
金EFTとは、「金価格連動型投資信託」のこと。証券会社や銀行をとおして購入し、投資信託としてプロに運用してもらう。こちらも一口4000~5000円くらいから購入できるので、手持ち資金が少なくても投資できる。積み立て方式ではないので、株のように指値で金が購入できる。
また手数料が安く、保管のコストもかからない。現在日本には5つの金EFT銘柄があり、それぞれ主要な証券会社、銀行が運営している。
金の購入方法③ 金地金の購入
あこがれの金ののべ棒の購入だ。あのずっしりとした感覚を得るには、おそらく1キロくらいの重さが必要だと思うが、それを購入するには今なら500万円以上の現金が手元に必要ということになる。しかし実際に金の板の購入には、お店によって異なるが、5グラムに始まり、10グラム、20グラム、50グラムなどいくつかの種類があり、手持ちの資金に応じて購入できる。ただし、500グラム未満の購入にはバーチャージと呼ばれる手数料が発生するので、購入は小分けではなく、なるべくまとまったサイズで購入したほうがいい。購入は、全国の貴金属商、大手鉱山会社、商社、大手デパートなどが扱っている。なにしろ金を買ったという実感が味わえ、手元に財産を持った印象がある。紙幣などと違い、経済危機などの影響で紙切れになるような恐れもない。
ただし、手元に置けば盗難の危険があり、保管を委託する必要性も出てくる。また、持っていても利息や配当がつくような商品ではないので、売買のタイミングが利益と損失を分けることとなる。
金の購入方法④ 地金型金貨の購入
いわゆる金貨のこと。日本で流通している有名な金貨には、クルーガーランド金貨(南アフリカ共和国)、メイプルリーフ金貨(カナダ)などがある。金地金の時価相当分に少額の上乗せ金を加算した時価で売買される。この上乗せ分をプレミアムと呼んでいる。金地金のような高額ではなく、1トロイオンス(約31.1g)、1/2トロイオンス(約15.5g)、1/4トロイオンス(約7.8g)、1/10トロイオンス(約3.1g)の4種類がある。
金地金と決定的に異なるのは、金貨にはバーチャージと呼ばれる手数料が少額でもかからないことだ。なので、金地金よりも、少額で手軽に購入することができる。何枚かの金貨を小分けに購入したり売ったりすることで、リスクを分配し、細かい収益を求めることができる。購入は、やはり貴金属店や銀行、デパートなど。
金投資のメリット
ここまで、金がこれほど高騰した理由や購入方法などを見てきたが、最後に金投資のメリットとデメリットをあらためてまとめておこう。
メリットA・実物資産としての強み
紙幣や株のような信用に裏付けされたペーパー資産ではないため、たとえ国が崩壊するような事態となっても、その価値がまったくなくなることはない。
メリットB・「有事に強い」を歴史が証明
紛争やテロ、経済危機など、世の中が混乱するたびに金は値上がりしてきた。今のように何が起こるかわからない世の中では、金を手元に蓄えておくことはリスク回避にもっとも手堅い資産だ。
メリットC・世界中で通用する基本の資産
金は世界中が認めるもっとも基本的な資産だ。同じ実物資産でも、そこが不動産とは違う。どこへいっても、現在の世界の相場で換金することができる。外国人が金貨を持ち歩くのもそうしたメリットを理解しているからだ。
金投資のデメリット
デメリットA・投資しても利息や配当がない
金の投資には、株や銀行預金のような利息や配当はない。金自体の値上がりによってのみ利益がでる。売買のタイミングを見ないと損失を被ることがある。
デメリットB・常に価格が変動している
ここまでの話のとおり、金は世の中の政治や経済の影響を受けやすく、日ごと時間ごとに価格が変化している。短期で利益を得ようとすると、よほど目を配っていないと価格変動についていくのが大変。
デメリットC・為替レートの影響を受ける
金はドル建てで国際取引されているため、たとえば円とドルの為替のレートの変化によっては、換金額が変わってくる。これは金取引の宿命である。
── 以上が、金取引のメリットとデメリットとなる。
値上がりが続く金価格だけにメリット・デメリットを事前に把握したうえ、賢い投資をしてほしい。
≪記事作成ライター:小松一彦≫
東京在住。長年出版社で雑誌、書籍の編集・原稿執筆を手掛け、この春退職。今後はフリーとして、さまざまなジャンルの出版プロでユースを手掛ける予定。
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