日本では寄附の文化がないと言われてきたが、返礼品のお得さで有名になった「ふるさと納税」は、実態は地方自治体への寄附である。海外とは違った形で、寄附が根付いてきたといえる。
一方、災害の多さが後押しする寄附もある。2011年の東日本大震災の頃から動きとしては目立っていたが、東日本で災害が目立った2019年の秋には、根付いてきたふるさと納税が被災地支援として役立つにことになった。
ふるさと納税に限らず、寄附には税制優遇がある。ふるさと納税とは異なる形の寄附もあるので、寄附の税制優遇について、基本からおさえておくとよい。
寄附金控除とは
寄附金控除とは、所得税を計算するにあたって所得税の課税所得から差し引ける所得控除である。
寄附金による税軽減には税額を差し引く控除もあるが、別の名称になる。
寄附金控除において、寄附先の種類は決められている。下記のいずれかに該当する必要がある。
- 国・地方公共団体
- 公益社団法人・公益財団法人(のうち所定の要件を満たし財務大臣が指定)
- 特定公益増進法人(独立行政法人・社会福祉法人など)
- 政治活動に関する寄附金のうち、一定のもの
- 認定NPO法人のうち一定のもの
ただ寄附先のウェブサイトなどで税軽減の対象かどうかは案内しているので、確実に税軽減されることを確認したうえで寄附することが重要である。寄附先として有名な団体には、赤い羽根共同募金(共同募金会)・日本赤十字社・認定NPO法人国境なき医師団日本がある。
所得税と住民税の違い
所得税では、所得から差し引かれる控除に該当することを説明した。住民税では寄附金税額控除となり仕組みが異なる。
所得税の寄附金控除は、控除額だけ所得が下がるのであり、控除額だけ所得税が下がるのではない。所得税率は課税所得に応じて下記のように決められている。
課税所得 | 所得税率 |
195万円以下 | 5% |
195万円超~330万円 | 10% |
330万円超~695万円 | 20% |
695万円超~900万円 | 23% |
900万円超~1,800万円 | 33% |
1,800万円超~4,000万円 | 40% |
4,000万円超 | 45% |
表1:課税所得に応じて設定された所得税率
例えば寄附金控除10万円により課税所得が500万円から490万円に下がるのであれば、10万円×20%=2万円だけ所得税が下がる(厳密には復興特別所得税分が2.1%増し)のであり、10万円下がるのではない。
これに対して住民税の寄附金税額控除の場合は、控除額だけ住民税額も下がる。寄附金税額控除の額が10万円であれば、住民税は10万円だけ下がる。
ただし一定の寄附に該当する場合は、所得税においても税額控除を選択できる。政党等寄附金特別控除・公益社団法人等寄附金特別控除・認定NPO法人等寄附金特別控除の3種類である。
ただ特別控除と寄附金控除は有利なほうを選択できるのであり、特別控除を受けるのなら通常の寄附金控除は受けられない。国税庁の確定申告書作成コーナーhttps://www.keisan.nta.go.jp/
を使えば、寄附先ごとに寄附金額を入力すれば自動的に有利なほうが適用される。
所得税が安くなる仕組み~所得控除の場合
所得控除である寄附金控除について簡単に説明したが、具体的な数式は下記の通りになる。
寄附金の額 - 2,000円
寄附金の額には所得合計の40%という上限がある。この上限を超えて寄附することは少ないと考えられるが、気をつけたい。
毎年2月16日~3月15日に行う確定申告では、所得税は還付(場合によっては納付)となるが住民税はその後6月に決まるため、この段階では住民税の軽減額はわからない。
特にふるさと納税を行った人に顕著だが、確定申告によって寄附金がほとんど戻ってくるという誤解もある。しかし、税務署からは一部だけが戻るので気をつけたい。
所得税が安くなる仕組み~税額(特別)控除の場合
寄附金控除に替えて特別控除を選択できるのは、一定の政党・公益社団法人・公益財団法人・学校法人・社会福祉法人・認定NPO法人等に寄附した場合である。
共同募金会への寄附は公益社団法人等寄附金特別控除が、国境なき医師団への寄附は認定NPO法人等寄附金特別控除が使える。
公益社団法人等寄附金特別控除と認定NPO法人等寄附金特別控除の控除額は、下記のとおりである。
(寄附金の額 - 2,000円)× 40%
したがって所得税率40%を割る、比較的所得の低い方は特別控除を選択すると有利である。
政党等寄附金特別控除は、下記の通り少し低くなる。
(寄附金の額 - 2,000円)× 30%
住民税が安くなる仕組み~基本控除
住民税の寄附金税額控除は説明したように税額を差し引く控除であるが、寄附金に広く適用されるのが、下記の算式で表される基本控除である。
(寄附金の額 ― 2,000円)×10%
基本控除は地方自治体への寄附であれば必ず受けられるが、他はそうとは言い切れないので気をつけたい。
例えば日本赤十字社に関しては、住所地の都道府県支部に寄附することが条件であり、共同募金会の住所地の都道府県共同募金会へ寄附することが条件である。
認定NPO法人へ寄附した場合は住民税からの控除を受けられる場合があるが、全てのNPO法人で認められているわけではない。寄附先の案内を確認したい。
また自治体の条例で決められていれば、住民税の控除を受けられるようなケースもある。例えば国境なき医師団への寄附は、東京都民であれば条例により住民税軽減を受けられるが、神奈川県・千葉県・埼玉県・大阪府などでは受けられない。
住民税が安くなる仕組み~ふるさと納税の場合
ふるさと納税の場合は、住民税からの控除は基本控除だけではない。基本控除以外に受けられる控除を紹介する。
特例控除
ふるさと納税で基本控除以外に必ず受けられる控除として、特例控除がある。
特例控除は、2019年5月までの寄附であれば、どの地方自治体へ寄附しても受けられた。しかし6月以降は、総務大臣の指定を受けた自治体のみとなった。
とはいえ指定を受けた自治体の方が多く、受けられなかったのは東京都と大阪府泉佐野市・静岡県小山町・和歌山県高野町・佐賀県みやき町だけである。指定の申請をしなかった東京都を除くと、過度な返礼品が問題視された自治体ばかりである。
特例控除は、下記の数式で計算される。
(寄附金の額―2,000円)×(100%―10%―所得税の限界税率)
所得税の限界税率は、表1の所得税率×102.1%を意味し、復興特別所得税を含めた所得税率を表す。
ただし表1の課税所得に関しては、読み替えが必要である。厳密には住民税の課税所得―所得税と住民税の控除差額となる。所得税と住民税の控除差額とは、例えば基礎控除のように所得税38万円・住民税33万円と違いがある場合は、差額5万円を指す。
ただ所得税と住民税の控除差額を差し引くのは、所得税の課税所得に近づけるための措置なので、住民税の課税所得―所得税と住民税の控除差額は、所得税の課税所得と一致する場合が多い。
この数式を見るとわかるが、特例控除に住民税の基本控除、そして所得税の寄附金控除に所得税の限界税率をかけた金額(要は所得税の軽減額)を足し合わせると(寄附金の額―2,000円)となる。
ふるさと納税で年間10万円払った場合、所得税・住民税あわせて9.8万円の節税効果があり、2,000円だけ損する。ふるさと納税が2,000円の自己負担というのは、このことを意味する。
ただし注意点がある。特例控除は住民税所得割額の2割という上限がある。この上限を超えてふるさと納税を行うと、自己負担は2,000円では済まなくなる。
申告特例控除
ふるさと納税で特例控除以外に受けられる住民税の控除には、申告特例控除がある。ただしこれは税軽減でお得な制度というよりは、確定申告しなくてもふるさと納税の恩恵を受けられるように設けられた制度である。
確定申告を行うと、所得税からの控除があることを説明した。確定申告せずともふるさと納税を行うためには、ワンストップ特例制度を利用し、全ての寄附先に申請書を提出する必要がある。
寄附先から住所地の自治体に通知が行われると、住民税から申告特例控除を差し引かれる。申告特例控除は、下記の数式であらわされる。
特例控除の額 × 所得税の限界税率 ÷ (100%-10%―所得税の限界税率)
特例控除の数式から考えると、上記の数式は
(寄附金の額―2,000円) × 所得税の限界税率
となり、通常は寄附金控除による所得税からの控除額に一致する。確定申告を行わず所得税から引けない分、住民税から差し引くのが申告特例控除である。
なお住民税所得割額の2割という上限規制を超えて寄附した場合は、確定申告した場合と比べ控除額が少なくなることに注意したい。
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