社会が成熟すると収入・職業・居住地等によって格付けが行われ、富裕層、中間層、貧困層といった格差が自然と生じます。

日本社会でも男女格差を筆頭に、最近は子どもの教育格差、都市と地方の格差、年金格差などが取りざたされていますが、自然災害、不況、リストラ、倒産、病気、離婚、シングルマザー、母子家庭、ワーキングプア、低所得の若者、老後の無年金者など、いわゆる「格差の底辺」といわれる生活苦にあえぐ人々もたくさんいます。
── これまで2回に分けて、成熟していない社会のもと、長期にわたって絶対貧困層から抜け出せなかった人々を救済してきたマイクロファイナンス(以下・Microfinance)の功績について触れてきましたが、今回はMicrofinanceがもたらす弊害と、日本の「相対的貧困率」を考察します。

競争激化 = 利潤・返済率低下という弊害も

Microfinanceの先駆けとしてバングラデシュで創設されたグラミン銀行の革新的スキームと成功によってMicrofinance の認知度が一気に上昇し、1980年代から政府系機関、NGO等の支援団体、民間の非政府組織によるMicrofinance機関が世界中で設立。またたく間に約1万以上の「MFIs」が存在するようになった、と前回ご紹介しました。
さらに今日では、数万人から数百万人規模の顧客を擁する「MFIs」も増加。世界でMicrofinanceが認知されて以来わずか20〜30年で、支援方法も事業規模も多様な「MFIs」が貧困層に融資を実行(支援を展開)したことで、すでに5億~6億人の人びとが継続的な所得を得られるようになり、貧困層から脱出したといわれています。

しかし、世界各国・各地でMicrofinance機関が設立され、貧困層への融資が積極的に行われるようになったものの、それはともすれば競争激化= 利潤低下という悪循環を生み出すことに。さらにはオペレーションコストの高騰が生み出した高金利によって、返済率低下が懸念材料になったことで、今日では開発途上国に拠点を置く「MFIs」間では、債務者情報が共有される「情報共有システム」が新たに構築されつつあります。

女性一人の継続収入 = 家族の生活向上

あわせてMicrofinanceでは、“女性”にフォーカスした取り組みも注目すべきポイントとなります。日本でもここ数年、女性の活躍が話題になっていますが、同様に先進国や経済大国においても「男女不平等」にまつわるニュースが日々取りざたされていますね。
女性の社会進出は国や社会の成熟度をはかるバロメータと言われますが、特に開発途上国では「男女不平等」の根は深く、女性に人権が与えられていない国も多く存在します。第1回「貧困緩和を目的とする、小規模金融〈マイクロファイナンス〉とは?」の記事でご紹介した「サブサハラ・アフリカ地域(サハラ砂漠以南)」に暮らす3〜4人に一人が、「1日に使えるお金が100円未満」の生活を強いられており、その大半が女性と子どもであることも判明しています。
こうした点から、Microfinanceを女性に積極的に活用してもらうことで、女性自らが小規模ビジネスを始める機会を提供し、継続収入を得られるまでをサポートするMicrofinanceのサービス支援アクターの存在も、現在大きな注目を集めています。

ここでなぜ、「男性」でなく、「女性」なのでしょうか。
ご紹介したグラミン銀行では債務者の97%が女性だったのですが、あえて女性に限定したことには明確な理由があったのです。それは一人の女性が融資を元手にビジネスをスタートさせ、生活の糧を継続的に得られるようになると、そのお金を自分だけでなく、家族のために使うことが判明したことに所以します。要は「女性一人の継続的収入 = 家族の生活向上」という図式が多数報告されたことによって、女性に融資をすれば、その家族が貧困層から脱出できる、さらには高い返済率も担保されることが実証されたのです。

「授人以魚 不如授人以漁」。魚を与えるより、釣り竿を

能力はあっても元手(資金)を調達できないがゆえ、貧困のループから脱出できない人々に光明をもたらしたMicrofinance。その点において、グラミン銀行の理念「顧客を貧困層からの脱出させる」は、無担保・低金利による少額融資、5人一単位のグループ制度なる様々なスキームによって見事に目的を果たすことになります。その半面、貧困者に資金が融資されても、自ら立ち上げた事業で継続的に利益をあげるノウハウがなければ、成功できる(貧困から脱出)保証はどこにもない……というジレンマが存在するのも事実です。

そして、グラミン銀行は自らの取り組みによって様々な問題を提起し、ジレンマをはじめ功罪相半ばする成長過程で、単に貧困層の人々に融資して銀行側が利益をあげる、それがMicrofinanceの使命でも本筋でもないことをも明白にしたのです。
そうした考え方と通底するものとして、何時間もかけて子どもが水汲みに行く地域や、水が少ないことから不便な生活を強いられているエリアに技術者や支援者が赴き、「井戸を掘って、日々の暮らしに必要な水を供給する」ことは重要な支援ともとれます。しかしこの方法では、技術者や支援者が帰国した後に井戸が壊れてしまったら、そのエリアに住む人々は再び水のない生活に逆戻りしてしまう可能性があります。
要は「井戸を掘ってあげる」のではなく、「生活水を得る技術・仕組みを理解する」「井戸を掘る技術を習得してもらう」ことがとても重要だということ。これと同じ考え方を表す格言に老子の「授人以魚 不如授人以漁(魚を与えるより、釣り竿を)」がありますが、Microfinanceは利益追求を主体とする金融機関ではなく、債務者にいかにして「釣り竿」を供給するかが問われる機関といえるでしょう。

2010年にインドで起きた、Microfinance破綻危機

先にご紹介したグラミン銀行のスキームも、「施しを与える」ものではなく「自らの力で自立する。そのためのきっかけとなる融資を行う」もの。老子の言葉に代えればその融資は「釣り竿(ビジネススタートのチャンスと、ビジネス継続のノウハウ)」となるでしょう。
実際に、釣り竿を得たグラミン銀行の顧客中(バングラデシュの人々)、約46%が貧困層から脱出し、さらに銀行側も約330万人もの顧客数、融資総額約42億ドル(約4720億円)、返済率97%という驚くべき数字と実績を打ち立てることに。この功績を受け、いまでは60ヵ国以上で貧困層を対象にした小規模融資が実施されるようになったのです。

しかしながら、よい話ばかりではありません。
インドのアンドラプラデシュ州では、2010年にMicrofinance破綻危機が起きています。この危機を簡単な図式で表すと「インド国内にMicrofinanceが誕生」 ➡ 「貧困層減少か?とメディアと政治が過剰反応」 ➡ 「一気に融資が実行」➡「業者間の取引拡大や過剰な返済要求が横行」➡ 「多重債務者が増加」➡「A社の返済分をB社から借り入れるなどの債務者が綱渡り状態に陥る」 ➡ 「複数の顧客(債務者)が借金苦で自殺」という図式になります。
さらには、高金利で暴利を稼ぐ悪徳業者が増加したことも大きな社会問題に。これらの事態に端を発し、州政府がMicrofinance側に個別訪問等の取立法、返済方法等に厳しい規制を課した一方、債務者側の間でも一気に返済拒否の動きが伝播し、債務返済率は規制前の90%超から10%以下に低下。結果、複数のMicrofinance機関が倒産することになってしまったのです。加えて貸付額は少額ながらも、債務者が機関の所在地から遠いエリアに居住しているケースが多く、債務不履行者が多くなればなるほどオペレーションコストが嵩むなど、機関側が抱える現実的な問題も同危機は浮き彫りにしたのです。

日本の貧困割合は、1280万人〜2028万人!

世界各国で高く評価されたグラミン方式のソーシャル・ビジネスMicrofinanceが、今日では貧困層を大幅削減する功績を打ち立てていますが、日本ではMicrofinanceの認知度は非常に低い現状にあります。

1970年代に日本の人口が1億人に達した際、国民の大多数が「自分は中流階級」という意識をもっていることを「一億総中流」の言葉で表しましたが、とはいえこの時、貧困者がゼロだったわけではありません。

また日本では、憲法の下「教育を受ける権利」が国民の三大義務のひとつとされていますが、義務(普通)教育を受けながらも社会に出た後、金融危機、不況、リストラ、倒産、病気、自然災害、離婚、シングルマザー、母子家庭、ワーキングプア、低所得の若者、老後の無年金者などの多面的要因によって生活苦にあえぐ、「相対的貧困率※」が全人口の10.1〜16.1%を占めることも厚生労働省の報告から判明しています(図参照)。
総務省がまとめた2017年7月1日時の概算値によると、日本の人口推計は1億2675万人になりますので、10.1〜16%が「相対的貧困者」とすれば、約1280万人〜2028万人が貧困状態にあり、図ではその割合はゆるやかながら上昇し続け、「30歳未満」と「65歳以上」の世帯主が高い割合を示していることがわかります。 ※相対的貧困率=一定基準(貧困線)を下回る等価可処分所得しか得ていない者の割合

── そういえば、(住民税を課税されていない)所得の低い高齢者1人あたりに3万円を給付する「年金生活者等支援臨時福祉給付金」の対象者数も、相対的貧困率と同じ1280万人でした。この「臨時福祉給付金」は「1億総活躍社会」の一環であり、「確認じゃ!」のCMでも広く認知されましたね。
行政側が実施する国民の一部に限定した支援は、えてして「バラマキ」との批判も噴出しますが、民間主体で弱者を救済するMicrofinanceが日本に敷衍するのは、いつになるでしょうか。規制、弱者に優しい社会、国民の意識に風穴が開くことが、その障壁を打ち破るきっかけになることは間違いないでしょう。

≪記事作成ライター:岩城枝美≫
東京在住。大手情報サービス企業を退社後フリーランスに。二十年余にわたり、あらゆるジャンルの取材・執筆、ディレクションに携わる。

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