トランプショックは本当に「ショック」だったのか
11月のアメリカ大統領選挙は大方の予想を裏切り、トランプ氏が当選した。彼は選挙中に「メキシコとの国境に壁を作る」「TPPは即時離脱」など過激な発言やこれまでのオバマ政権の政策とは異なる思考を選挙中から示してきた。しかし、トランプ氏が一貫して演説やインタビューなどで「アメリカを再び偉大な国とする」と発信している。その言葉通り、現在の2倍となる年4%の経済成長を成し遂げるための大規模な雇用創出策や大幅な減税、インフラ投資など多くの政策を示している。その裏付けとして市場では、トランプ氏当確後、株式市場は急上昇し、日経平均株価も19,000円を上回ることとなった。
選挙期間中は彼が当選した場合、「市況が荒れる」「円高が進行する」「政策が不透明であるため市況が読めない」などとの市場関係者から声が聞こえていた。証券会社のレポートでも円高や株価下落の予想が多く見られたが、結果的に杞憂に終わった格好である。当時囁かれた「トランプショック」はネガティブな意味でのショックではなく、市場にとってはポジティブな意味での「ショック」となったとも言えるだろう。
そのトランプショックだが、トランプ氏が掲げる減税や投資政策などの目玉政策がある一方で、詳細についてはまだ不透明な部分もある。しかし、市況にとっては経済を後押しするものが多く、世界経済をけん引するアメリカの景気が上向くことで先進国だけではなく新興国に対してもプラスの要因に働くとの期待感が生まれている。
これまでのアメリカはリーマンショック後に景気回復を期すために低金利政策を行い、その他の先進国でも金利引下げを中心とする景気刺激策を展開してきた。そのリーマンショックから景気回復を行ってきた道筋が、トランプ氏の大統領選挙当選によってアメリカ経済が先導する世界経済へと転換されたのである。
今後のトランプ氏の政策は、アメリカの経済動向を左右することはもちろんのこと、再び世界経済を力強く引っ張っていく重要なものとなっている。1月20日にトランプ大統領が就任するが彼の一挙手一投足は今後も見逃せない。
アベノミクスとトランプショックを経験した新しい常識
トランプショック3年前の2012年12月衆院選挙で第二期安倍政権が誕生した。安倍政権はデフレ脱却を目標に「財政出動」「金融緩和」「成長戦略」という「3本の矢」で名目経済成長率3%を目指すいわゆる「アベノミクス」を始動させた。アベノミクスにより、80円台で推移していた対米ドル為替レートが100円を超える円安に転じ、日経平均株価も2万円台を突破するなど景気が大きく改善した。また、労使交渉への影響力も強め、賃金上昇を要請し消費の拡大を促した。さらに日銀による「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」という大規模な金融緩和が金融機関の貸出金利を低下させ、企業の投資を活性化させようと取り組みを継続している。アベノミクスや日銀のマイナス金利政策については賛否両論あるものの、円安株高となったことは結果的に市場に肯定、歓迎されたと言ってもいいだろう。
そのアベノミクスは、大統領選挙期間中にトランプ氏優勢が伝えられた際に一時的な急激な円高株安へと陥った。要因はトランプ氏の政策が経済的なリスクとして市場が判断したからである。特にもトランプ氏がTPP離脱を唱えた途端、日本の経済活性化にTPP必要不可欠なものであるとの安倍政権の政策の一つであるためか影響を危惧して大きく株価が下落した。しかし、大統領就任が確定した今、アメリカの経済政策の大きな転換への期待感から日本株価は上昇を続けており、為替レートも円安へ進行している。
「トランプショックは景気の転換点で新しい常識が必要になる」
新聞の経済面や証券会社の運用レポートではこうした文言が目に入るようになってきた。それは、これまでのリーマンショック後の為替や株価の水準から、アベノミクスを踏まえたトランプショック後の新しい水準へと移行しているとの考え方である。2017年の市況予想でも日経平均株価2万円超えや為替レート120円~130円を超える円安へと向かうのではというエコノミストが増えてきた。リーマンショック後ではとても考えられなかった水準である。
このような環境であるからこそ持っておきたいのが、世界経済が今後どの様な方向へと転換し、注目していかなければならないポイントはどこにあるのかという注意力である。少なくとも世界経済はトランプショックを受けてプラスの局面へと進行し続けるものと予想される。アメリカ国内でのインフラ政策や金融政策、エネルギー政策などは世界のマネーを集めることとなり、結果的に関連産業を持つ国や地域へと還流することが期待されることから、政策はもちろん各国の経済動向に目を光らせていく必要があるだろう。
これまでの世界の経済的関心事はイギリスのEU離脱問題や欧州内の金融危機、アメリカFOMCの利上げなどであったが、ここにきてトランプ氏の大統領就任を間近に控え大きく変化してきた。また、日本国内ではアベノミクスに加えて、トランプショックによるインフラ株の上昇や円安転換により株価の上昇が関心事となっている。一方で、トランプ氏が掲げる政策に実効性がどこまであるのか、アベノミクスの三本の矢はどこまで持続できるのか、日米の金融政策の動向はどうなるのかなどは引き続き関心事となりそうだ。
国内のアベノミクス及び日銀のマイナス金利政策に加えてアメリカのトランプ氏が掲げる政策がシナジー効果を得ることで、新しい市況水準、新しい常識を持ちながら、敏感に経済情報に目を通していかなければならない、そんな2017年の経済となりそうだ。