マイナス金利実験は失敗した
日本銀行(日銀)が「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」を導入した昨年1月29日から1年が経ちました。
日銀はマイナス金利を導入して金利全般に低下圧力をかけ,夏頃には住宅ローンなど主要な金利の基準となる「10年国債利回り」を▲0.3%、償還までの期間が20年の国債利回りを0%まで低下させました。
「金利を引き下げるほど経済にプラス」との前提で、「日銀がこの調子で買い続けると2018年には枯渇してしまう」と懸念されるほど国債をマーケットから買い付けて、目論見通り金利を引き下げましたが、設備投資や個人消費は伸び悩んだまま。金融機関の収益悪化などの副作用は大きく、9月21日に「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を新たに導入しました。
この内容は、①短期金利を▲0.1%、10年国債利回りを0%程度で推移するようにコントロールする、②消費者物価上昇率が2%を超えるまで金融緩和を継続する、というものでした。その後、現在の10年国債利回りはマイナスから0.10%程度へ、20年国債利回りは0.7%程度へと上昇する展開が続いています。
「金利を引き下げるほど経済にプラス」という日銀のマイナス金利導入実験は失敗に終わったと言えるでしょう。
私が投資相談を受けてきた経験に「1%の壁」があります。金利水準が1%に近づくと投資意欲が湧き、1%から大きく離れる低金利になると金利に対して無関心になるのです。
マイナス金利という未知のゾーンに入り、「金利に無関心になる」を通り越して、多くの人は預金がマイナス金利になるのにおびえ、年金や老後資金の目減りを心配して個人消費意欲が減退し、2016年における2人以上世帯の実質消費支出は、うるう年効果があってプラスになった2月を除く月は前年割れとなりました。
市場の動きは日銀次第??
マイナス金利の実験を進めていく過程で日銀は大きなリスクを抱え込んでいます。本来、金利はお金を借りたいニーズが高くなれば上昇し、お金が余ってくると低下します。株価は買いたい人が増えれば上昇し、売りたい人が増えれば下落します。こうしたマーケットのニーズで上下する機能を日銀が奪ってしまったのです。
黒田総裁が2013年4月に就任する前の日銀が保有する国債残高比率は13.2%でしたが、2016年3月末には33.9%まで上昇し、日本国債を保有する世界一の投資家になっています。そこまでマーケットから日銀が国債を買い付けて人為的にマイナス金利を実現させたのです。
従来の日銀は、「長期金利はマーケットの様々の要因で変動するもの。市場に任せることが重要」と説明してきましたが、9月21日に導入した長短金利操作付き量的・質的金融緩和後に日銀のホームページで「長期金利の操作は可能」と訂正したことに私は驚きましたし、「日銀は正気なのか」と、その傲慢さを心配しました。
金利だけではなく株価もです。上場投資信託(ETF)の買い入れを通じて、日銀が市場に流通する株式の1割以上を実質的に保有する企業は50社近くに上り、「日銀の買い入れによって日経平均株価は1,000~1,500円、割高になっている」という見方もあります。
「金利」「株価」は経済の先行きを示す参考になるものと昔から注目されてきましたが、「マイナス金利」も「高株価」も日銀のスタンスに支えられている事実に鈍感であってはいけません。
これまで支えてきた日銀に近いうち限界が来て、金利上昇・株安に急変する可能性に備えて準備が必要だと考えます。ひとつは日銀がこれまで守ってきた円の信頼が崩れて、行き過ぎた円安になる事態に備え、円以外の資産を持つ「通貨分散」を進めること。ドル為替相場で言えば、当面、1ドル=112円から122円でのボックス相場が続くと私は想定しており、115円割れの水準は「円高に振れた」と円から他の通貨に換えて通貨分散するチャンスと捉えたほうがよいと思います。
もう一つは、儲けることよりも、大きく損をしないことを意識して、割安だと確信できないものには慎重に取り組み、深追いせず、欲張らず、利益確定を心がけること。
「投資で悔しいのは安いときに買えないこと」と言い聞かせ、余力を確保して、確信できる投資対象が見つかるのをじっくり待つことをお勧めします。「まだ上がる」と順張りでの追加投資は慎重であったほうが良いでしょう。