2017年6月5日、サウジアラビア・エジプト・UAE・バーレーンの4か国がカタールと断交した。
「カタールがテロリストを支援している」というのが断交の理由であり、カタールは「不当だ」と反発。
カタールとの陸路・空路での断交を中東の主要国が行ったことで、経済的にも安全保障的にも世界中が衝撃を受けた。
感情的、宗教的な対立を上回る政治的な確執
中東のイスラム教圏での対立は、シーア派・スンニ派などの宗派対立で語られることも多いが、カタールとの断交はそれ以上にアメリカを中心とする政治的な問題が生み出したものだ。
アメリカの保守政党・共和党はサウジアラビアとの関係が深い。
トランプ政権は自身の政権基盤を固める意味合いも含め、民主党のオバマ政権時代に確執が深まっていたサウジアラビアとの距離を近め始める。
ハッキングや暴露により、「カタールがイラクのテロ組織を支援している」との情報が一気に流れ、6月の断交へ繋がった形だ。
しかし、サウジアラビア自身もアメリカの左派陣営やヨーロッパ諸国からは「テロリストを支援している」との厳しい疑いをかけられている現状。
様々な宗派・部族・思想が乱立する中東のイスラム教圏では、単純に政権とテロリストとのつながりを断定することはできず、欧米の政治的闘争にイランと敵対するサウジアラビアやUAEが便乗した格好だともいえる。
断交前までは、カタールは食料品などをサウジアラビアからの輸入に頼ってきた。カタールにはシーア派・スンニ派双方の信者が暮らしており、宗派対立も目立った動きは無く文化的にもサウジアラビアとは長年交流を持っていた。しかし、サウジアラビアやUAEはイラクと敵対し、カタールはイラクと友好的であることから、サウジアラビアやUAEなどの周辺国とカタールの関係が悪化し始める。
突然の断行に、同じイスラム教国家のトルコがカタールを支援し、食料品輸入を一部ヨーロッパにも頼る方針を取っている。
カタールはサウジアラビアよりも西側のトルコ・ヨーロッパと、サウジアラビアなどはアメリカとのつながりをより一層深めることになった。
影響は「エネルギー」と「交通」に
周辺国からの突然の断交に、カタールの情勢が一気に悪化する懸念もあったが、トルコやイランが即座に空輸で物資を緊急支援したことから安全保障上の懸念も払しょくされ大きな混乱は無かった。
断交のニュースに、中東で活動する日本企業にも緊張は走っていた。
日本はエネルギーを中東に依存しており、2016年の通関統計ではカタールからは9%の石油を輸入している。
1位:サウジアラビア・35%
2位:UAE・25%
3位:カタール・9%
石油輸入国の1位と2位の国が、3位の国と断交したということだ。
また、LNG(液化天然ガス)は多くをカタールから輸入している。
1位:オーストラリア28%
2位:マレーシア18%
3位:カタール13%
JETRO(日本貿易振興機構)によれば、UAEドバイの経済特区には丸紅などの多くの日本の商社が拠点を構えており、カタールのエネルギーもドバイで取り扱っている。
2022年のサッカーワールドカップはカタールで開催が予定されているため、大林組など日本の大手ゼネコンも、カタールのインフラ整備に向けて既にドバイへと入っている。
陸路が遮断されているため、物資の搬入が滞ってしまう危険性があり、ドバイに拠点を構える商社や大手ゼネコンにはこのまま計画が進むのか、不安が広がっているのだ。
ただ、イラク戦争前夜のように特定地域の空を飛ぶ飛行機が爆撃されたり、シリアや一部のアフリカのように地域をテロリストが支配し通行ができないという状態ではない。空路・陸路が遮断されていない現状では、断交の経済的影響は断定的だ。
中東の混乱は長期化する
実は、2014年にもサウジアラビアなど周辺国がカタール大使を召喚している。
一度は大使も戻され解決したかに見えた問題だったが、イラクの強硬な姿勢やカタールの親イラク政権を理由に断交へと踏み切ることになった。
現状でカタールの情勢はまだ落ち着いては居るものの、カタールとサウジアラビアなど周辺国の混乱は解決の糸口さえ見えず長期化することは確かだ。
元々、サウジアラビア・UAE・アメリカとイランの問題が飛び火した形ではあるが、関係は改善の兆しすら見えない。
サウジアラビアとイランは指導者の殺害事件なども発生したことから大規模な暴動なども起こっており、国民感情も悪化したままで冷静な議論自体が行えない。
イランは核開発を諦めてないことをアメリカや周辺国が避難している反面、アメリカ自体は長引く戦争で中東自体にもう関与したくないというのが本音。
断交発生時、アメリカは当初サウジアラビアの行動を追認したものの、関係国にホワイトハウスでの仲介交渉を呼びかけており、表面上は中立の立場を見せている。
カタールを支援してはいるものの、人権を声高に叫び、サウジアラビアなどを非難するヨーロッパが具体的に動くことはないだろう。
欧米諸国は問題があることを認識し非難の声明は出すものの、中東で更なる紛争を生み出せば、エネルギー価格の上昇や難民などの問題で火の粉が飛んでくることを知っているのだ。
少なくともアメリカの共和党政権下の世界では、中東の経済はカタール・イランとサウジアラビア・UAEを基軸とした対立を基本として回っていく可能性が高い。
≪記事作成ライター:H/s≫
海外の景気動向や時事ニュースをチェックしているフリーライターです。時事問題や不動産に関する記事、宗教対立や民族問題、その背後にある各国の政治的関係性も経済問題として解説した記事を執筆しています。
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