アメリカ・プリンストン大学のAngus Deaton教授は、自身の調査によって、所得が増えるに従って幸福度が増えるのはおよそ7万5000ドル(日本円で約800万円)までで、それ以上は稼げば稼ぐほど幸せになれるわけではないということがわかったと発表しました。

基本的には稼げば稼ぐほど幸せになるが……

お金が必ず人生を幸せにしてくれるわけではありませんが、お金があったほうが幸せになりやすいことはみなさんも経験的におわかりかと思います。それを考えれば、所得が増えれば増えるほど統計的な幸福度は高くなって当然な気もしますが、一体なぜ7万5000ドルを境に幸福度の上昇が止まってしまうのでしょうか。

それ以上稼ぐためには、自分の時間をより仕事につぎ込まなければなりません。また、仕事で受けるストレスも増えるはずです。つまり、稼ごうとすると不幸になるのです。それが所得の増加による幸福度の増加とちょうど相殺されるため、いくら所得が増えても幸福度は横ばいのままになるのだと推測されます。

ただし、ここでいう幸福度とは「現時点での満足度、日々の生活の満足度」のことです。もっと大きな、「人生全体の満足度」については、所得が7万5000ドルを超えても変わらずに比例して上昇していきます。

つまり、所得が7万5000ドルの人と所得が100万ドルの人では、日々の生活による幸福度は同じでも、人生全体の幸福度は後者のほうが高いというわけです。所得を7万5000ドル以上にしようとする試みは、決して不毛なものではないのです。

時系列的に見れば幸福度は上がっていない?

一方で、大阪大学が行った調査によれば、40年前と現在では、日本人の幸福度はほぼ変わっていないことも明らかになっています。アメリカ人と日本人では幸福の感じ方も違うので一概に比較する訳にはいきませんが、普通に考えれば40年前の人間よりも現在の人間のほうが実質GDPには恵まれているので幸せになっていなければいけないはずです。

しかし、日本でも、現時点で所得が高い人は、そうでない人と比べて幸福度が高い傾向にあります。大体800万円ぐらいで頭打ちになるのも、アメリカと一緒です。

一体なぜこのような現象が起こるのでしょうか。

幸福度は相対的なもの

幸福には絶対的なもの(他人との比較とは関係なく成り立っているもの)と相対的なもの(他人との比較に基づいて成り立っているもの)があります。殆どの人間は意識的に、あるいは無意識的に、相対的な幸福度に重点を置いています。つまり、他者と比較して自分のほうがより豊かだから幸せと感じるわけです。

そしてその比較対象はいつの時代も、同時代を生きている周囲の人間です。近所の人よりも豊かならば幸せを感じ、近所の人よりも貧しければ不幸を感じるわけです。

現時点で所得が7万5000ドル以上の人間は、アメリカ全体で見てもかなり上位層に位置する人です。彼らは近所の人よりも所得が多いため、幸せを感じているのです。

一方、今の日本人は昔の日本人と自分を比較することはまず無いので、今のほうが実質GDPが高いからと言ってそれで幸福を感じることはまずありません。昔の日本人は昔の近所の人と自分を比較していて、今の日本人は今の近所の人と自分を比較しているのです。

稼ぐことはやはり幸せにつながる

ここまでいろいろな指標を見てきましたが、やはり全体として稼げば稼ぐほど全体的な幸福度が上昇することは間違いありません。所得800万円の壁は、所得が実際に800万円になってから意識すればいいだけの話です。そこに到達するまでは、とにかく所得を増やすことが大切です。

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