「カジノ法案」とはそもそも何なのか

カジノは世界的に容認されている国が多く、カジノの市場規模は世界で18兆円を超えると言われている。アメリカラスベガスやマカオ、シンガポールなどカジノが有名な場所も多く、カジノを楽しむだけではなく観光名所としても多くのインバウンド効果がもたらされている。今後、日本でカジノが解禁となるとアメリカに次ぐ世界第二位になるという推計も出ており、カジノによる経済効果に加え、観光や商業分野においてもプラス効果が期待されている。

このインバウンド効果を最大限に生かすために、平成28年12月の衆議院で「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律案」(IR法案)が成立した。この法律は、特定の地域に対して国際展示場やホテル、大型商業施設などを統合リゾート施設として整備していくことを定めたものである。その施設の中に日本で現在認められていないカジノを導入することが含まれているため、いわゆる「カジノ法案」としてニュースを騒がせたのである。

そもそもこの法律の目的は、海外からの観光客による日本経済の活性化を図ろうとしたもので、インバウンド事業の一環として取り組まれてきたものだ。実はこの「カジノ法案」は2010年4月に設立された超党派議連の「国際観光産業振興議員連盟」が2011年8月にカジノを中心とした複合観光施設の国内整備に向けた取り組みとして「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律案」(IR法案、カジノ法案)を公表したものがもとになっている。最近の報道ではつい最近急に「カジノ法案」が取りざたされているように見えるが、5年以上前から本法案のひな型は議論されてきたのである。以降、何度か法案を衆院に議員立法として提出するも、採決までたどり着くことができず、昨年12月にようやく成立したものである。

「カジノ法案」で何が変わるのか

「カジノ法案」の成立により、すぐにカジノが日本にできるかというとそう言う訳ではない。

第一条 この法律は、特定複合観光施設区域の整備の推進が、観光及び地域経済の振興に寄与するとともに、財政 の改善に資するものであることに鑑み、特定複合観光施設区域の整備の推進に関する基本理念及び基本方針の他の基本となる事項を定めるとともに、特定複合観光施設区域整備推進本部を設置することにより、これを総合的かつ集中的に行うことを目的とする。
(出典:衆議院「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律案」)

以上の通り、あくまでも特定複合観光施設区域整備推進本部を設置するための法律であることが条文から伺い知れる。カジノを実際に導入するまでには推進本部のほかに、カジノ管理委員会の設置を行い、今後別途法律で詳しく定められる内容に適合する運営会社が審査を通過する必要がある。

そうした背景の中、カジノの導入を推進している都道府県のひとつが大阪府である。大阪では2025年に万博を誘致するため、国に対し協力を要請しており、その万博に向けカジノをはじめとするIRを整備し、相乗効果で大きな経済効果を生み出していこうと取り組みを開始している。IRの整備により観光客の誘致はもちろんのこと、カジノ以外の商業施設でも多くの雇用創出が期待できるほか、周辺産業でも土地開発や施設維持などの経済効果は計り知れないものになる。さらには、雇用拡大や商流の活性化などから税収の増加も期待されており、自治体としても大型施設の導入に全力を尽くす一因にもなっている。

カジノ解禁のリスクとは

しかし、カジノの解禁について反対の声も多く聞かれている。カジノ依存症に対する法制度やケアの整備はもちろんのこと、暴力団やテロ組織を中心とする反社会的勢力によるマネーロンダリングなど懸念材料も挙げられている。また、タックスヘイブンで規制が強化されつつあるが課税逃れの問題も一部で指摘されている。こうした負の面をいかにして解消させていくのか。またどの様な対処をしていくのかまだまだ課題は多い。カジノにより大きな経済効果を得ているアメリカラスベガスでは犯罪歴のある人を徹底的に排除したほか、マネーロンダリングに対して厳しい規制を行うことで犯罪組織への資金流用やカジノに係る犯罪を減らしている。シンガポールでは課税逃れを防ぐための制度を導入していたり、国民に対して入場料を設けることで青少年などへの影響を極力低減させたりしている。こうしたカジノを先行して導入している諸外国の運営手法を参考にしながら、一つ一つの課題に向き合っていく必要があるだろう。

これまでの日本では刑法において賭博の一切が禁止されていたため、カジノの導入は現実的ではなかった。しかし、経済に好影響をもたらすインバウンド事業は、少子高齢化社会で様々な問題を抱えている日本の経済を後押しする期待は十分持てるだろう。そんな中「カジノ法案」は成立こそしたが、まだまだ本格的なカジノ導入に向けて改正を必要とする法令や制度は多い。そして、カジノは日本経済の救世主となるのか、それとも負の側面が見えてくるのか、引き続き国・地方自治体、カジノ関連企業などの動向に目が離せない。

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