現在、日本は財政危機に陥ったギリシャを抜いて世界一の借金大国である。日本の「国の借金」は、現在1000兆円を超え、GDP比で200兆円以上の財政赤字を抱えている。2016年11月10日に財務省から発表された「国債及び借入金並びに政府保証債務現在高」によると、国債や借入金、政府短期証券をあわせた「国の借金」の残高が1062兆5745億円(2016年9月末時点)である。
日本政府の抱える莫大な借金はなぜ増えたのか?
急激なスピードで膨らんでいく国の借金は、バブル崩壊をきっかけに、90年代に一気に増大した。バブル崩壊の影響で不況が続き、97年から98年にかけては銀行や証券会社が相次いで破綻する。日本政府は経済政策として、1997年4月に消費税を3%から5%に引き上げるものの景気回復には至らず、ほぼ毎年20兆円以上の国債を発行し続けているのだ。
さらに、2011年に東北の太平洋岸を中心に破壊的な被害を及ぼした東日本大震災の復興費用のために債務が膨んだうえ、日本国債の格付けにも影響があった。米格付け大手のスタンダード・アンド・プアーズ(S&P)によると、日本国債の格付けは東日本大震災が起きた2011年に「AA」から「AA-」に、2015年には「A+」まで引き下げられた。日本政府はアベノミクスという経済政策を掲げ経済復興に取り組んできたが、世界的にはアベノミクスは経済成長につながっていないと評価されたようだ。
債券の格付けが下がるということは、返済能力の信用度が下がり低金利で債券が発行できなくなり、高金利の国債を発行することで利息が膨らみ、さらに借金が増えることになる。そんな中、2016年1月に日銀がマイナス金利政策を導入した。日本の歴史上始めて10年国債がマイナス金利で発行されることになったのだ。日銀は新規発行額以上の巨額な日本国債を購入しており、日本国債の金利は低水準で推移しているものの、国債の金利上昇は借金の増大につながるため、マイナス金利導入は膨大な借金を抱える日本政府にとっては大きな恩恵をもたらすことになる。
しかしながら、このまま借金が膨らみ続けても、日本は財政破綻しないのであろうか。かつて、日本は戦後の1946年にハイパーインフレが発生し、財政破綻している。当時はインフレ対策として「預金封鎖」と「新円切替」が行われたが、戦争後の後始末や、復興資金、戦費捻出のために発行された戦時国債の償還等で膨れ上がった借金返済のために国民の財産を国に移す目的であった。そんな事態が再び起こる可能性はないのであろうか。
(参照)日本の財政関係資料(財務省)
日本が財政破綻しない理由!?
莫大な「国の借金」があるにも関わらず、どうして日本の財政は破綻しないのか。それは、日本はギリシャのような他国と財政内容が異なるうえ、世界的に類を見ない(いわゆる異次元)経済政策を行っているからである。
国債の国内外の保有比率
日本政府が発行した国債の現在(2016年12月末時点)における保有者別内訳を見ると、長期国債・財融債の合計は958.1兆円あり、その半数近い459.7兆円を民間銀行等が保有し、370.8兆円を中央銀行が保有している。つまり国内での保有が87%近く占めており、海外の保有は5.5%程しかない。一方で、ギリシャでは発行した国債の80%近くを国外において保有されている。
これはどういうことかというと、ギリシャでは借金をするために国債を発行しても、国内では購入されないために、高金利で発行し海外に保有してもらっていた。したがって、利払い時には負担が大きいうえに、国債償還時には他国の通貨に換算して返済しなければならなくなる。そして、2009年10月の政権交代時に巨額な財政赤字が明るみに出たことで、ギリシャの借金返済能力が疑問視され、海外投資家等の不安が増大し、いわゆるギリシャ危機となったのだ。EUの支援により危機は回避されたものの、ユーロの下落や世界各国の株価下落など世界市場に与えた影響は大きかった。
引用:ギリシャ財政状況
日本の場合は、国内での保有が大多数を占めており、なかでも2013年4月の金融政策決定会合で決定された量的・質的金融緩和政策(異次元緩和)の結果、中央銀行が国債購入を積極的に行っており、つまりは日本銀行の保有割合が確実に増加している。2017年1月末時点での保有割合は初めて4割を超えた。そして、この異次元緩和政策で日銀が国債を保有し続ける限り、日本政府は国債満期時に日銀に対して元本返済する必要がないのだ。なぜなら、日本政府から返済を受けるということは、政府は国民から税金を集めて支払うことになり、そうするとデフレ脱却のために市場に流通する通貨を増やす目的で行われている異次元緩和政策が意味のないものになってしまうからである。
日本国の経営状態をBSで見れば借金は実質ゼロ!
極端に言えば、日本銀行の国債は政府の借金とは言えず、日本銀行が大量に国債を保有し続ける限り、日本の財政破綻はありえないということになる。
しかし財務省が公表している政府のバランスシートを見てみると、平成27年度は「資産の部」が672兆円、「負債の部」が1193兆円、「資産・負債差額」が▲521兆円となっており、やはり巨額な債務超過に愕然としてしまう。
しかしながら、日本国をいち企業と捉え、経営状態を日本政府と日本銀行を連結してBS(バランスシート)を作成してみると、政府債務である国債と日本銀行資産である保有国債を相殺すれば、債務超過額は116兆円まで下落する。また、負債の部に日本銀行が発行した銀行券402兆円があるが、利子負担なし、償還負担なしだから実質的に債務でない。さらに、政府保有の「金融資産」や国税の「徴税権」といった見えない資産の評価額を加味すると、日本の財政は債務超過の状態ではないと言える。
引用:財務省「国の財務書類」の概要
日本銀行 第131回事業年度(平成27年度)決算
とはいえ、日本銀行の国債大量購入については問題点も多く指摘されており、実際に市場の国債不足が発生し、民間銀行などからの国債の買い入れが大幅に縮小している。これに対して日本銀行は、年間の買い入れ「目標」を「メド」に変更し、「金利」を安定させるために購入額を調整する方針にした。異次元緩和政策が出口局面に入ったことを示唆しているのかと思いきや、実際には日本銀行の国債買い入れは拡大し続けている。
日本の財政破綻は今そこにある危機ではないが、異次元緩和政策の出口が示されないことに不安を感じる。今後も政府や市場の動向に注意しなければならないであろう。
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