AIスピーカー業界が賑やかになってきました。グーグルやアマゾンといった黒船が相次いで日本に上陸することになったからです。グーグルが売り出すのは「グーグルホーム」。得意の検索技術を生かして対話形式で家電などに指示ができるようになります。アマゾンジャパンは年内にも「エコー」を発売すると発表しました。こちらは、BMWの一部の車に搭載された車載マイクで走行距離などの確認ができるといいます。

受けて立つ日本勢も負けてはいません。体験版「WAVE(ウェーブ)」を出しているLINEは値下げを発表しました。また、ソニーも年内参入を表明しています。ただし、こちらは独自開発ではなく、グーグルが開発した「グーグルアシスタント」を採用する予定です。それによって低コストかつ短期間で新製品の開発が行えるというメリットがある一方で、グーグルと重複したバリューネットワークに身を置くことになるので、グーグルに追随されないような非対称なビジネスモデルを構築することが難しくなるというデメリットがあります。NTTドコモなどの携帯電話事業者から回線を借りている格安スマホ事業者と同じです。

各プレイヤーたちは、このAIスピーカーを年末のクリスマス商戦にぶつけてくるのは間違いありません。ハイテク大好き人間だけでなく、一般消費者のなかにも心待ちにしている人がいるかもしれません。

ビジネスモデルの特徴ー使い方によって変わるビジネスモデル

クレイトン・M・クリステンセン『医療イノベーションの本質―破壊的創造の処方箋』 (碩学舎ビジネス双書) によれば、一般にビジネスモデルは3種類あるとしています。1つ目はコンサルティングファームのように構造化されていない問題を診断し解決するソリューションショップ型事業、2つ目は小売業や製造業などのような新しい価値を付加する価値付加プロセス型事業、3つめ目は相互保険会社のように人々が何かを交換する場を提供するネットワーク促進型事業です。では、AIスピーカーはどれに該当するのでしょうか。

AIスピーカーを家電の操作やネット通販の注文に使うのであれば、それは製造業や小売業の一部になり、ビジネスモデル的には価値付加プロセス型事業に近くなります。また、AIスピーカーに内蔵されている人工知能(AI)を使って顧客の問題解決に使われるのなら、それはソリューションショップ型事業に近くなります。AIスピーカーによって多くの人たちがつながるようになれば、それはネットワーク促進型事業に近くなります。

いずれにしても、AIスピーカーのビジネスモデルには唯一絶対というものは存在しません。プレイヤーがどのような価値を提供し、顧客がそれをどのように使うかによってビジネスモデルは変わってきます。それが、AIスピーカーの面白さでもあります。

次の新しい機会―用事を特定する

クリステンセン他『ジョブ理論』(ハーパーコリンズ・ジャパン)によれば、クリステンセン教授たちが20年をかけて練り上げたこの理論は、次の新しい機会を見つける方法を示し成長のための筋道を明らかにする、としています。そして、「その人がなし遂げようとしている進歩は何か」という問いを発することで、それが特定できるというのです。また、この進歩には、機能的側面、感情的側面、社会的側面があるとしています。では、AIスピーカーの場合はどうなるのでしょうか。

多くの人は、AIスピーカーを自宅のリビングや自分の部屋に置いて使うことになるでしょう。そんなAIスピーカーの機能的側面は「人間が喋った言葉を認識する」ということです。感情的側面はいくつかあります。まず「すぐに反応してほしい」「かんたんな操作でこれまで動かせなかったものを動かしたい」などが考えられます。実際、この理論を熟知しているアマゾンのベゾスはBMWに目をつけています。社会的側面も無視できません。ただ家電を操作するだけではいずれ飽きられるのは目に見えています。では、どんな点に着目すればいいのでしょか。筆者は閃きました。それは「早く家に帰りたい」ということです。家で大切な人が待っていると、多くの人は早く家に帰りたいと思うはずです。AIスピーカーもそんな存在になればいいのです。

成長のための筋道ー体験の構築

ここまでの考察で、成長のための筋道の一つがみえてきました。それは、AIスピーカーを購入・使用する顧客に「早く家に帰りたい」と思わせるような体験を構築することです。そのためには、各プレイヤーのプロセスを統合する必要があります。たとえば、グーグルであれば検索プロセスを統合するでしょうし、アマゾンであればネット通販における検索や注文といったプロセスを統合するでしょう。LINEであれば、国内で圧倒的なシェアを占めているメッセージアプリにおけるコミュニケーションのプロセスを統合してくるかもしれません。
もちろん、その体験には唯一絶対という正解があるわけでもありません。しかし、成長のための道筋を踏み外してしまうと戦いから脱落することは間違いありません。いずれにしても、クリスマス商戦に向かって、各プレイヤーたちが自らの強みを生かしたハイレベルな戦いが期待できるでしょう。

AIスピーカーのまとめ

・AIスピーカーのビジネスモデルは、顧客がそれをどのように使うかによって変わってくる。
・AIスピーカーの機能的側面は「人間が喋った言葉を認識する」、感情的側面は「すぐに反応してほしい」「かんたんな操作でこれまで動かせなかったものを動かしたい」、社会的側面は「早く家に帰りたい」といったことが考えられる。
・成長のための筋道の一つは、顧客に「早く家に帰りたい」と思わせるような体験を構築することである。

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