ダイドードリンコ株式会社(以下ダイドードリンコと省略する)は、缶コーヒーのダイドーブレンドやミネラルウォーターのMIUを主力商品とする飲料メーカーです。
しゃべる自動販売機といったユニークな提案でも知られる企業で、最近は株主優待の豪華さで個人投資家からの注目度が高い企業としても知られています。

優待ランキング上位を維持しつつ、得られた資金で海外進出を加速させています。ダイドードリンコはどこに向かおうとしているのか、その海外戦略に迫ります。

ダイドードリンコの海外進出概要

現在、ダイドードリンコでは主に海外展開を3つのエリアに分けて取り組んでいます。ロシアをHUBとしたCIS圏、上海をHUBとした中華圏、そしてマレーシアをHUBとしたイスラーム圏です。
2013年からロシアに進出した後、2016年には今後需要が高まるであろうイスラーム圏進出を果たしています。現在、トルコやマレーシアの現地企業をM&Aで取得して販売網を獲得し、清涼飲料や飲料水販売に着手しています。

人口ボーナス期を迎えているトルコ事情

積極的な海外進出の中でも、特に人口ボーナス期を迎え、若年人口が上昇するトルコへの事業投資は注目されています。現在はトルコの首都イスタンブールを本拠地とする企業を基軸としていて、缶コーヒーの販売準備をしています。

トルコでは、伝統的にトルココーヒーが根強く、オフィスではお茶くみ係が存在していて、喫茶店などでコーヒーを嗜むのが一般的です。それゆえ、缶コーヒーの市場はほとんど存在していません。また、イスラームの国ということもあり、飲料基準も厳しいのが現状です。
その中で、現在の主要事業は炭酸飲料に偏っています。トルコ国内トップシェアのCamlicaや昔なじみのあるトルコのコーラCola turkaが主力商品です。飲料水Sokaは自宅用の宅配水事業が堅調に推移しています。

イスラム国(=IS)との抗戦地域ゆえ、治安環境は不安定ですが、国民の購買意欲は高く、ダイドードリンコは新規飲料カテゴリの創出を目指している状態です。

ハラール認証基準最高峰のマレーシア

トルコ同様にイスラーム世界としてダイドードリンコが拠点を置くのがマレーシアです。マレーシアは、マレー人・中国人(=華僑・華人)・インド系が住まう多民族国家です。国教がイスラームで、およそ6割の人が信仰しています。

現在、ビジョン2020という国家プロジェクトを提唱し、2020年までに先進国入りを目指している国でもあります。直近5年ほどはGDP成長率も4%後半を維持しており、経済成長期にあたります。
ダイドードリンコでは、今後のイスラーム圏での販路拡大に向けて、マレーシアを重要視しています。その一因となっているのがハラル認証の基準です。

スーパーでは、ハラル認証とはイスラーム教徒たちが守るべき食事規則にのっとっている食材に付与されるものです。マレーシアのスーパーでは、ハラル用とノンハラル用のレジが分かれているほど、ハラルの基準は厳格に区別されています。

このような背景の上、国家の成長戦略の一つとして、ハラル産業に力を入れています。1994年に世界で初めてハラル認証制度を導入し、世界中にアピールしているところです。それゆえ、ダイドードリンコも、マレーシアでのハラル認証付与を目指し、現地企業を経由して飲料事業に取り組んでいます。
現在、マレーシアの大手食品メーカー「マミー社」を通じ、飲料のみならずスナック菓子やインスタント麺などをスーパー・コンビニなどに卸しています。今後ASEAN地域に販路を拡大したい意向があると考えられます。

ロシアで自販機は普及するのか

ロシア連邦を中心とするCIS圏は、2億人を超える人口を有する商業圏です。ダイドードリンコでは、1999年にロシアのウラジオストクに試験的に自販機を設置し、2013年から現地法人を設置しています。自販機の売上が全売上の約85%を占めるダイドードリンコにとって、自販機事業は生命線であり、各自販機メーカーより先駆けて行われた取り組みでした。

MOSCOW, RUSSIA – 17.06.2015. Vending machines Japanese companies DyDo for drinks in the underpass

現在はウラジオストクのみならず、首都モスクワに9万台ほどの自販機を設置しています。モスクワ駅構内などに設置されており、アメリカンコーヒーといったサイズ感のあるもの、炭酸飲料等が好調のようです。

今後、人口1000万人を超えるモスクワへの自販機設置を加速させる他、旧ソ連としての経済的連携を持つCIS圏へと販路拡大を目指しているといえます。

ダイドードリンコの海外戦略の今後

今回は詳しく触れませんでしたが、中華圏についてもすでに上海に現地法人を設立し、ロシア同様、ダイドードリンコの製品を輸出し販売しています。上海ではスーパーやコンビニにダイドードリンコ製品を卸しており、もっとも日本に近い形で商品が浸透しているといえるでしょう。

今後、ダイドードリンコの海外戦略として、缶コーヒーが普及していない地域への販売がカギといえます。そのためには、現地に缶コーヒーを飲む文化を根付かせる必要もあるでしょう。
また、人口ボーナス期に入っているイスラーム圏を中心に、まずはハラル認証をクリアした商品開発が期待されています。販売チャネルの獲得とともに、「世界のダイドー」として世界基準の製品が近い将来、販売されることが期待されます。

≪記事作成ライター:Saya≫
川村学園女子大学非常勤講師(専門分野:アジア宗教史)、中高一貫校で社会科非常勤講師をしつつ、分かりやすい海外情勢・投資情報を提供している。Sayasayanの株日記

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