投資には上場株・投信・FX・先物・仮想通貨といった様々なものがある。儲けによっては税負担が非常に重くなることがあり、2017年から2018年にかけては仮想通貨に関して話題になった。
投資の種類によって税制は異なるので、種類ごとに整理し、税制上どのような投資スタンスが望ましいか考えたい。
仮想通貨と株・FXの税制上の違い
所得税の課税方式は、原則は超過累進税率による総合課税方式であり、課税所得が高くなるほど税率も上昇する(表1参照)。例外として、一定の税率を適用する分離課税方式も存在する。
課税総所得金額=A | 所得税額 |
195万円以下 | A×5% |
195万円超330万円以下 | A×10%-97,500円 |
330万円超695万円以下 | A×20%-427,500円 |
695万円超900万円以下 | A×23%-636,000円 |
900万円超1,800万円以下 | A×33%-1,536,000円 |
1,800万円超4,000万円以下 | A×40%-2,796,000円 |
4,000万円超 | A×45%-4,796,000円 |
表1:所得税の課税所得とそれに対する所得税額の計算
仮想通貨は前者の総合課税方式であり、株・FXは後者の分離課税方式である。株式の配当や投資信託の分配金に適用される配当所得に関しては、両者のどちらかを選択できる。
株・FXのような金融取引に関する分離課税の税率は、所得税率15.315%・住民税率5%と決まっている。仮想通貨の住民税率は10%と一定である。
株・FX取引による所得は低所得者であっても税負担が重い一方で、仮想通貨に課される所得税・住民税は儲けが大きいと、所得の半分以上になる場合もある。
源泉徴収あり特定口座とその他株取引口座・FXの違い
株・FX取引による所得に対する税金の払い方は2通りある。源泉徴収あり特定口座は、株式などを売却した際に所得税・住民税が源泉徴収され支払うことになる。
この特定口座を除く証券口座での取引やFXでは、所得税・住民税が徴収されないので、所得を原則確定申告し、その後所得税・住民税を納めることになる。
所得税と住民税が源泉徴収される場合は確定申告する必要は無いが、別口座で損失が生じている場合は、確定申告により源泉徴収されていた税金が還付される場合がある。
また確定申告しない場合は(もしくは住民税申告で申告不要としている場合)、マイナンバーに記録される所得に算入されることはない。
国民健康保険料は、マイナンバーに記録される所得に基づいて金額が決まる。そのため、申告義務の無い源泉徴収あり特定口座で株取引を行うほうが有利な場合がある。
通常の株取引と比較したNISAの位置づけ
NISAは少額投資非課税制度と呼ばれているように、一定額までの投資に関しては売買益や配当(配当は条件有り)が非課税になる制度である。
つみたてNISAであれば投資額年間40万円で20年間、通常型NISAであれば投資額年間120万円で5年間は売却益・配当が非課税となる。
ここでは他の株式取引との違いを、少し違った観点から見てみる。NISAによる株売買益は節税になるというのもあたってはいるが、「申告の手続き不要」「税金や保険料、給付制限の元となる所得を発生させない」と認識しておくのがよい。
節税と言っても、後に説明するiDeCoのように「申告手続きが必要」「発生する税金を下げる」のと意味合いは異なる。
「申告の手続き不要」「保険料、給付制限の元となる所得を発生させない」のは、源泉徴収あり特定口座の譲渡所得を確定申告しなかった場合にも当てはまり、これが源泉徴収あり特定口座のメリットでもある。
しかし源泉徴収あり特定口座の所得を申告しなければ、20.315%の税金は取られたままである。源泉徴収あり特定口座のメリットに、「税金を発生させない」をプラスすることに、NISAの意義がある。
iDeCoの掛金は所得から差し引かれる控除に
「iDeCo」と呼ばれるようになった個人型確定拠出年金は、創設されたのはiDeCoの愛称がつくよりもっと前の話だが、対象者が専業主婦や公務員に拡大されてから注目度が高まっている。
支払う掛金を自己責任で運用し、さらにその運用益は非課税になることから、NISAとよく比較される。特につみたてNISAは定期的に投資資金を拠出する点でiDeCoとも似ている。
ただiDeCoの税制上の扱いはNISAと異なり、年末調整か確定申告のいずれかの手続きを行わないと最大限の税制メリットは享受できない。
またiDeCo以外で所得税や住民税が発生する所得が無ければ、税制面でのメリットが大きく失われる。
iDeCoが所得税や住民税に影響を与えるのは、定期的に拠出する掛金である。掛金の分だけ、給与所得や雑所得、譲渡所得などの所得から差し引かれ、課税所得は下がる。
所得控除のしくみを理解すると節税が見えてくる
iDeCoの掛金は、「小規模企業共済等掛金控除」という名の所得控除に該当する。所得控除は、他に扶養控除・医療費控除などがあり全部で14種類存在する。
所得税や住民税を計算する上で申告すべき所得の方は、給与所得・事業所得など10種類存在する。この10種類の所得は、収入から経費を差し引いて計算する。課税所得を計算するまでの過程で、この所得からさらに差し引けるのが所得控除である。
所得には、分離課税方式の所得(株・FXによる所得など)と総合課税方式の所得(仮想通貨の所得など)があることを説明した。分離課税の所得には他に不動産売却の所得があるが、給与など大半の所得は総合課税に該当する。
計算事例で理解する
総合課税と分離課税の所得合計が、下記の通り(表2)になっている計算例を考える。例1~3で分離課税の所得合計は変わらないが、総合課税の所得合計を変えている。
総合課税 | 分離課税 | |
例1 | 1,000万円 | 1,000万円 |
例2 | 300万円 | 1,000万円 |
例3 | 200万円 | 1,000万円 |
表2:所得合計の金額
それぞれの例に対して、iDeCoにより所得控除の合計額を80万円増やすシミュレーションをしてみる。
A | B | |
所得税 | 220万円 | 300万円 |
住民税 | 200万円 | 280万円 |
表3:iDeCoを考慮する前(A)と考慮した後(B)
住民税の所得控除額は、基礎控除・扶養控除など所得税より減るものがある。iDeCoは所得税・住民税とも控除額は同じである。今回の事例では、所得税と住民税で20万円差があるものとする(表3)。
所得控除の差し引き方
総合課税の所得と分離課税の所得のうち、まず総合課税の所得から所得控除が差し引かれる。総合課税の所得より所得控除が多い場合には、多い分が分離課税の所得からも差し引かれる。
総合課税と分離課税の各課税所得は、下記の表4のとおりになる。例1・例2では総合課税の所得合計>所得控除額のため、総合課税の所得合計のみ下がる。例3の場合は、総合課税の所得合計より200万円、分離課税の所得合計より残額が差し引かれる。
総合課税 | 分離課税 | |
例1A | 780万円 | 1,000万円 |
例1B | 700万円 | 1,000万円 |
例2A | 80万円 | 1,000万円 |
例2B | 0円 | 1,000万円 |
例3A | 0円 | 980万円 |
例3B | 0円 | 900万円 |
表4:所得税における課税所得 赤字は所得控除が差し引かれていることを示す。
総合課税 | 分離課税 | |
例1A | 800万円 | 1,000万円 |
例1B | 720万円 | 1,000万円 |
例2A | 100万円 | 1,000万円 |
例2B | 20万円 | 1,000万円 |
例3A | 0円 | 1,000万円 |
例3B | 0円 | 920万円 |
表5:住民税における課税所得
iDeCoの減税効果を試算
所得税額は、総合課税に関しては表4の課税所得を基に表1により計算され、分離課税に関しては表4の課税所得×15%となる。復興特別所得税は所得税の2.1%である。
住民税額は、総合課税に関しては表5の課税所得×10%、分離課税に関しては表5の課税所得×5%となる。これに定額負担の均等割5,000円が加わる。
この理屈により、例1~3において所得税額・復興特別所得税額・住民税額の合計を計算すると表6のとおりになる。ここでは、iDeCoによりどれだけ減税になるかもまとめた。
A | B | 減税額 | 減税額の算式 | |
例1 | 4,016,300 | 3,748,400 | 267,900 | 80万円×(約23%+10%) |
例2 | 2,174,800 | 2,054,000 | 120,800 | 80万円×(約5%+10%) |
例3 | 2,005,800 | 1,843,300 | 162,500 | 80万円×(約15%+5%) |
表6:iDeCoによる減税額
減税額の算式は、80万円×(所得税率+住民税率)となる。所得税率が「約」となっているのは、少額の復興特別所得税が加わり、税額計算で100円未満切り捨てを行うからである。
例3のように分離課税の所得に対してiDeCoが減税に寄与する場合、所得税・住民税あわせておよそ20%だけの節税効果はある。
例1・例2のように総合課税の所得に対してiDeCoが減税に寄与する場合、総合課税の所得が多い人ほど、節税効果は高くなる。例1は総合課税の税率が大きいため例3より節税効果が高くなり、例2は総合課税の税率が小さいため例3より節税効果が低くなる。
うまく組み合わせての節税ポイント
仮想通貨の所得のように、投資により総合課税の所得が大きく発生しうる場合は、もう1つの投資手段としてiDeCoのような所得控除になるものを組み合わせると、iDeCoが節税対策に大きな威力を発揮する。
仮想通貨で前年に大損して翌年大きく儲かった場合でも、損失の繰越で税負担を抑えることができないことも頭に入れておく必要がある。
FXは損失の3年間繰越で税負担を抑えることは可能だが、株式取引のような確定申告不要制度は無い。所得が大きく発生した際に税負担をおさえておきたいなら、やはりiDeCoが節税対策に役立つ。
一方源泉徴収あり特定口座で取引しており、確定申告の手間を省きたいのであれば、iDeCoのメリットは薄れてくる。投資信託はiDeCo以外に特定口座・NISAでも取引できるから、なおさらである。税金徴収額をおさえたいのなら、NISAを活用すると良い。
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