近年、行動経済学という新たな学問がにわかに注文を浴びています。行動経済学とは、従来の経済学のような合理的経済人(どんな時でも必ず自分の利益の最大化を最優先する合理的な人間)ではなく、時には不合理な判断をすることもある現実の人間を前提に様々な分析を行う経済学です。従来の経済学と比べて、より感情に重点を置いた経済学と言えます。

人間は基本的には合理的な生き物です。投資の場では特にそれが顕著になり、誰もが自分の利益を最大化するために行動します。

しかし、一方で人間は勘定で動く生き物でもあります。明らかに持ち続けることが危険だとわかっていながら損切りができずに塩漬けにしてしまったり、逆に持ち続ければ利益が大きくなる可能性が高いのに小さなところで利確してしまったり……というのは、よくあるエピソードです。このような人間の感情の癖を分析するのが行動経済学の基本です。

人は損をすることが大嫌い!

例えば、ある日投資で5000円の利益を出して、次の日に5000円の損失を出したとします。この場合、あなたは得したと感じますか、それとも損したと感じますか?実際には5000円得た後で5000円失っているのですから、合計の利益はちょうど0円であり、得も損もしていないのですが、多くの人は「損した」と感じます。

行動経済学によれば、人間は利益よりも損失の方に強く反応するものです。その為、ある額の利益を得ても、それと同額の損失を出せば、最終的には「損した」という感情が強く残るわけです。

利益の喜びより、損失の悲しみのほうが大きいわけですね。言いかえれば、人間は損をする、何かを失うということに対して非常に強い恐れを抱いているわけです。

だからこそ人間は損切りがなかなかできません。損切りをしたら損失が確定してしまうからです。損切りをしなければ損失が確定しないので、いつまでも「いつかは反転するかもしれない」という希望にすがることができます。しかし、大抵の場合はその判断のせいで却って傷口を広げることになります。

「損切りは機械的に行ったほうがいい」と言われているのはそのためです。●●%の損失が出たら絶対にその時点で損切りをする、というルールを事前に作っておけば、損切りができずにズルズルと含み損を大きくしてしまうことがなくなります。

人は関係のない数字にも思考を引っ張られる

人間は判断をするときに、最初に自分が知っている数字を基準にする事が多いです。例えば、ある商品が3000円で売られていても「その商品は3000円である」としか思いませんが、6000円→3000円と表記されていると、その商品が非常に安い値段で売られているように思えてしまうのです。このような考え方をアンカリングと言います。

アンカリングは、それが明らかに全く関係のない数字であっても働きます。

例えば、A社の株式の値動きを毎日追い続けるとします。A社の株価は大体1000円前後で推移しています。それをしばらく続けた後、なんとなくB社の株価をチェックした所、株価は100円でした。あなたはどう思いますか?

本来、A社の株価とB社の株価は全く関係のないものです(同業他社の場合などは全く関係がないとも言えませんが、その影響はごく僅かなものです)。A社の株価がいくらだろうとB社の株価には関係ないはずなのですが、多くの人にはアンカリング効果によってB社の株価が安く見えてしまうものなのです。投資の判断をする前には、自分の思考が関係ない数字に引っ張られていないか強く疑ってかかる必要があります。

人は自分に都合の良い情報が大好き

例えば、あなたは今A社の株価が上がるのではないか、と漠然と考えているとします。あくまでも漠然と考えているだけであり、しっかりとした確証があるわけではありません。こういうときはあなたと同じ意見(A社の株価が上がると考えている人)と、あなたと違う意見の人(A社の株価が下がると考えている人)の両方の意見をしっかりと聞き、それらの情報をもとに総合的な判断を下すべきなのですが、多くの人は自分にとって都合のいい情報、つまりは自分と同じ意見だけを集めて安心しようとする傾向があります。自分の意見だけでは安心できないから、仲間を集めて安心しようとするのですね。

自分に同調する情報をやたらと求めている自分に気づいたときは、本当にその自分の固執している考えが正しいものなのか、一度立ち止まって考えてみたほうがいいでしょう。

このように、人間の行動には様々な特徴があります。こうした特徴を学んでいくことにより、投資市場の中で正しい判断を下せる可能性が高まります。もちろん、従来の経済学を学ぶのもいいですが、より勝てる可能性を高めたいのならば、行動経済学についても一通り学んでおいたほうがいいでしょう。

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