我が国に「成果主義」という制度が導入されはじめてから、約20年の歳月が流れた。

当時の導入の際のお題目は立派なものであった。「社内での競争力を喚起して国際競争に勝てる企業力をつける」、「仕事の成果に見合った待遇をすることで優秀な人材、とりわけ若年層のモチベーションアップにつなげる」などなど。しかし内実は人件費の削減のためだったりしたものだ。

「成果を出せば報酬がアップするのだから、誰にも平等である」という大義名分があるものだから、導入に際して大きな支障もなくスンナリと年功序列から脱却できた企業も多かったようだ。企業側にとっては「成果を出さなければ報酬は下がる」という裏の真理が効果的だった。これまで不可侵の領域だったベテラン勢の中に居るローパフォーマーの給与を下げることに成功したのである。

実際は成果主義と年功型のハイブリッド

鳴り物入りで導入された成果主義だったが、実は日本の多くの企業が取り入れたのは「成果主義+年功序列」の折衷型、いわばハイブリッド形式だった。

つまり成果を上げた人には他より少しだけ給与のアップ率を高くして、それ以外の人はフラットに近い(つまり現状据え置き)状態で抑えるというものだ。

問題は成果を上げられなかった社員の給与はしっかり下げたか?という点だが、下げたとしてもほんの僅かという企業が大半だ。

それでも旧来の給与上昇カーブを全体的にフラットにできたことで人件費の抑制は実現できたし、公約?通りに成果によって給与に凹凸をつけたのも事実なので若手からもベテランからも、ハイパフォーマーからもローパフォーマーからも、不満は最小限にとどめられたのだ。では、なぜアメリカをはじめとする海外企業のように思い切った成果主義に踏み込めなかったのか。

そもそもアメリカなどは雇用の形態が日本とは根本的に違っているので評価制度だけ変えても雇用のベースが違うから必ず齟齬が生じる。それだけのことだ。

雇用形態の違いとは、今さら紙幅を割く必要もないのだが、ジョブ型とメンバーシップ型の違いのことである。アメリカはジョブ型雇用で「職務ありき」だ。

その職務をこなせるスキルがある者を雇用するので、その職務を遂行できるようになるまで育てようという日本式のメンバーシップ型とはベースがまったく異なるのだ。

結局、そうした齟齬をできるだけ埋めて、最大公約数の社員に納得をしてもらうためには、ハイブリッドにするほかなかったのである。

アメリカでは人事評価をしない企業が増加

年次評価が個人と組織のパフォーマンス(業績)向上に役立っていないという研究結果が出されると、米国ではGE、マイクロソフト、アクセンチュアなどの錚々たる企業がこうした評価制度を廃止した。これは人事評価を行うためにかかるコストと時間が膨大であることも理由のひとつだが、年次というスパンが目まぐるしく変わるビジネス環境の変化に追いつけなくなっていることが大きい。1年前の目標なんてもう既に過去の遺物になっているというのである。

また1年に1回程度のフィードバックでは部下とマネージャーのコミュニケーションは不十分であり、チームとしてのパフォーマンスの低下を招くおそれがある。

こうした企業ではより頻繁な上司・部下のコミュニケーションを推奨している。プロジェクトが済んだタイミングなどで年数回のフィードバックを行なうことにより、その後に下された評価にも納得する度合いは高くなっているようだ。

この動きは、アメリカも「冷徹な成果主義」から「対話を通した個々人へのマネジメント」という方向にシフトしていることを示している。

コンピテンシー評価の台頭

日本で、成果主義が浸透してきた時期に注目を集めてきたのがコンピテンシー評価だ。これは社内におけるハイパフォーマーの行動特性を調査してそれを評価項目として設定するというものである。

これまでの漠然とした目標設定にくらべ具体性が高く、イメージがしやすいため評価者は評価がしやすいという大きなメリットがあったし、被評価者も自己の行動と照らし合わせやすいので目標設定がしやすかった。しかもこの行動特性を真似すればハイパフォーマンスに行き着くという裏付けがあったため(実際はそう上手くはいっていない)多くの企業で取り入れられてきた。

人事評価にもAI導入?

上述したGEやマイクロソフトの例、また日本におけるコンピテンシー評価の隆盛、これらからも判るように、誰もが人事評価を面倒な儀式だと思っている。

できれば簡単に波風立てずに済ませておきたいのだ。上述のような様々な手法が生まれる背景にもそうした「ストレス軽減志向」があると考えられる。

GEのやり方もコンピテンシー評価も、結局は評価は下されるのである。それも生身の人間が人間を評価するのである。マネージャーにとっては(特にプレーイングマネージャーにとっては)日々の業務に追われる中で残業したり、時には家に持ち帰ってフィードバックの準備をしたり、自分の下した評価が妥当かどうかに悩み胃が痛くなる思いをしているのである。

こういう面倒でストレスフルな仕事こそAIにやらせたら良いと思うのは自然な発想なのだろう。実際アメリカのベンチャー企業では人事評価にAIを用いるという実験的施行も見られるそうだ。しかし、実用化はまだまだ先に話になりそうだ。そもそもAIにインプットするビッグデータが揃えられないのだ。社員の普段の会話から全メールのやり取りまで用意しないと正当で公平な評価は下せないからだ。

そもそも人事評価は必要か

「人事評価制度は面倒くさい」という本音を探ったが、もうひとつ「人事評価制度に正解はない」ということを、そろそろ多くのビジネスマンが勘付いているのではないだろうか。欧米のコンサルタントが新しいメソッドを紹介するたびに「これこそがあるべき姿だ」と思わせるが、結局数年すると陳腐化し場合によっては破綻するのだ。

人事評価と言うのは何も従業員の給料を決めるための儀式ではなく、企業理念・ビジョンに対し社員がブレずに行動できているかを確認するための制度であるというが、実際のところはそうでもないようである。

年次人事評価はムダに社員の競争心を煽り、会社内の不安定要素を増長させる。ならばいっそのこと相対的な競争を排除してしまえばどうか。

社員は安定感を得て社内でのギクシャクが減り「協働」の効果が増進する。マネージャーは面倒な作業から解放され本業に邁進できる。良いことずくめでは?

しかしよく考えると、これは旧日本型の年功序列・終身雇用と何も変わらないのである。そもそも20年前のバブル崩壊時に全否定された制度だ。

アメリカ型成果主義は廃れてきて、先駆的な米国企業が取り入れたのが何となく旧日本的な「メンバーシップ型」の匂いのする個々人との対話重視型というのが興味深いのだ。結局、時代時代の最適な人事評価制度とは、似たようなものが少しずつ形を変えてグルグルと回っているだけなのかも知れない。

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