個人投資家や自営業者が税金を最も意識する時期は、確定申告期間である。しかし賢く税金対策を行うには、年末までに対策を考えておく必要がある。

ところでこの年末をむかえるにあたって、個人投資家にとっては教訓とすべきこともおきている。東京都・千葉県その他の多数の市区町村が、上場株式等の所得に対して2005年から長年に渡り課税誤りをしていたことを公表している。

このミスに関しての正しい課税方法は、投資家の間でもあまり知られてこなかった話である。次の確定申告だけでなく、年末に向けての税金対策に生かしていくことも大事だ。

株・FXの損益通算や繰越損失

上場株や公募公社債・公募投資信託、J-REITの譲渡益は上場株式等に係る譲渡所得、配当・分配金・利子は上場株式等の配当所得(もしくは分離課税の利子所得)、FXや先物取引の差金決済は先物取引等に係る雑所得に該当する。

上場株式等に係る譲渡所得に関して損失が生じた場合は、上場株式等の配当所得や他口座で生じた譲渡所得とのみ通算でき、先物取引等に係る雑所得で生じた損失は、他口座の先物取引等に係る雑所得とのみ通算できる。なおNISA口座の損失は、課税口座の所得とは通算できない。

また通算してもなお残った損失は、翌年以降3年間は繰り越せる。2015年に生じた損失は、2018年まで繰越が可能である。

2018年の所得から控除してもなお残った損失は、2019年以降は無効になるので、直近の確定申告書を確認し2018年末の税金対策で意識したい。なお黒字の所得に対して所得税15.315%、住民税5%がかかる。

年末の税金対策として考えられること

所得が大きくなりそうな場合

2018年の所得が何百万円・何千万円となり、2017年以前の繰越損失も無いか少額の場合は、源泉徴収あり特定口座ですでに徴収されている場合は別として、来年の確定申告期間や6月以降に多額の納税を覚悟しておく必要がある。

2018年10月以降は、日経平均株価やTOPIXは大きく下がり、個別の銘柄を見てもかなり下落したものが見受けられる。含み損をかかえた金融商品を売却し、課税対象の所得を下げることを考えたい。

なお株式口座の取引においては、年内に売却を行うためには、年末最終営業日の3営業日前までに注文を出し約定する必要がある。2018年は12月28日金曜日が大納会であり、12月25日火曜日までに約定を済ませたい。

2018年もしくはそれ以前の損失を抱えている場合

一方ですでに売却損や2015年以降の繰越損失をかかえており、含み益を抱えている金融商品を保有している場合は、金融商品の売却を行い、損失を減らしておきたい。損失を減らす際の注意点は次に述べる。

繰越控除活用の注意点:合計所得金額・扶養範囲

税金対策を行ったはいいが、概念の理解を間違えて思わぬ納税が出てきた、もしくは社会保障制度への影響が出てきたなどにならないよう注意したい。

特に、過去3年分の繰越損失と相殺する場合には注意を要する。

源泉口座での取引であっても申告は必要

例えばA社の源泉徴収あり特定口座内で、2015年に生じた50万円の損失と3万円の配当があれば、取扱金融機関側で損益通算処理を行う。

しかし残った47万円の損失を繰り越す場合、まず2015年分の確定申告が必要である。

さらに2016年以降繰り越した損失と、A社源泉口座で生じた所得を相殺する場合も確定申告が必要である。

合計所得金額では繰越控除は行わない

保険料控除などの所得控除を差し引く前の所得合計を表す概念として、合計所得金額と総所得金額等がある。

この2つの違いは、繰越控除を適用するかである。合計所得金額は適用せず、総所得金額等は適用する。

同じ公的保険料でも、国民健康保険の保険料は総所得金額等(ただし退職所得は除外)に基づき、65歳以上の介護保険料は合計所得金額に基づく。繰越控除を適用しない合計所得金額には気をつけたい。

扶養などは合計所得金額で判定

その他合計所得金額が用いられる代表的なものには、扶養の判定基準である。扶養控除の対象は合計所得金額38万円以下であり、配偶者控除に至っては夫婦両方の合計所得金額で判定される。

繰越控除を適用した総所得金額等が38万円であれば所得税は課税されないが、扶養控除の対象になるとは限らないことに注意したい。

繰越控除活用の注意点:損失・繰越申告をする時期

もう1点繰越控除を活用するにあたっての注意点は、繰り越す損失を申告する時期である。

必ず損失発生年から順番に申告する

2015年に発生した株式・FXの損失を2018年まで有効に繰り越すには、確定申告書は、2015年分→2016年分→2017年分→2018年分と必ず順々に申告する必要がある。

例えば2015年分→2017年分と、1年飛ばして申告したら2017年以降の繰越控除はできなくなる。また2015年分の損失を申告し忘れて2016年分の申告を行うと、2016年以降の繰越控除はできなくなる。

各年とも住民税の納税通知書送達日までに申告する

損失発生年分、その後繰り越す年分のいずれも、住民税の納税通知書送達日までに申告すべきである。

納税通知書送達日は自治体により、また給与から引かれるかどうかにより異なるが、5月もしくは6月である。この送達日までに申告しないと住民税の計算上、繰越控除はできなくなる。

住民税課税ミスで繰越損失が「消える」ケースも
2018年9月以降、東京都や千葉県を中心に住民税の課税ミスを発表する市区町村が続出している。どの自治体も共通しているのは、株式配当や譲渡所得といった、投資に関わる部分でのミスである。

投資家にとって影響が大きくなってくるのは、繰越損失の扱いである。本来の法律上の規定では、すでに説明したように、納税通知書送達日までに申告しないと繰越控除はできない。

しかし一部自治体は実際には納税通知書送達日後の申告でも、所得税と同様に繰越控除を認めていたので、これは課税ミスになる。

課税ミスを正すことで、繰越損失が消えてしまう投資家も出てくる。東京都はこの事態を国(総務省)に報告していたため、東京や千葉の住民に限らずいずれ全国的に広がることが予想される。実際に11月20日過ぎには、埼玉・愛知・群馬の市区町村からも課税ミスがあったと報道されている。

例えば2015年分の繰越損失が90万円あり、2016年分20万円・2017年分30万円・2018年分40万円の所得と相殺していたとする。

表:2015年~2018年の所得と、繰越損失と相殺できる額
所得 相殺額

年度  所得 相殺額(所得税) 相殺額(住民税)
2015年 △90万円 パターン1 パターン2
2016年 20万円 △20万円 0円 △20万円
2017年 30万円 △30万円 0円 0円
2018年 40万円 △40万円 0円 0円

 

2015年分の繰越損失を2016年の納税通知書送達日後に申告していた場合(パターン1)、2016年分~2018年分の各所得に所得税はかからないのに、5%の住民税がかかってしまう。

2016年~2018年の所得はあわせて90万円であり、住民税はその5%である4.5万円かかってくる。

2016年分までは送達日前に申告していたが2017年分において送達日後に申告した場合(パターン2)は、2016年分の20万円は相殺できるが、2017年以降の所得とは相殺できなくなる。

この場合は2017年の30万円と2018年の40万円に対し、総額で3.5万円の住民税がかかる。

このように申告の遅れが思わぬ課税につながるので、気をつけたい。

住民税課税ミスを税金対策その他に生かしたい

住民税課税ミスで繰越損失が消える多くのパターンは、過去に申告し忘れていた損失を、黒字の年分といっしょに申告していた場合である。

株式等の譲渡所得やFXで生じた雑所得で、例えば2016年分に赤字が生じ、2017年は黒字が生じた場合、2016年分と2017年分をともに2018年3月1日に申告していたケースを考える。

2018年3月1日は、2017年分に対する住民税の納税通知書送達日前にあたるが、2016年分に対しては送達日後となる。

このため、住民税では2016年分の損失を繰り越せないことになる。

損失やその後の繰越に関して都度、毎年確定申告期間に申告していればこんなことにはならない。

過去にこのようにまとめて申告していた場合は、繰越損失が消えるリスクを織り込んで年末の税対策を考えたほうが良い。

住民税は計算例で見てきたように、消える損失分×5%だけ課税されるが、住民税の所得が増える影響はこれだけにとどまらない。

国民健康保険料や介護保険料に影響し、国民年金保険料の免除額や児童手当などの支給額にも影響が出る場合がある。会社の社会保険に加入していれば健保年金への影響はないが、影響範囲を考えて含み損を抱えた商品の売却も考える必要が出てくるだろう。

 

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